【单词】”文学少女”と死にたがりの道化(ビエロ) 一章

兰汐羽兮 (神谷みか/みかの消失) 中学校2年生
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发表于:2015-02-04 17:54 [只看楼主] [划词开启]
 一章 ● 遠子先輩は、美食家です 


 「ギャリコの物語は冬の香りがするわ。清らかに降り積もった新雪を、舌の上でそっと溶かし、その冷たさと儚さに心が気高く澄んでゆくような、そんな美しさと切なさがあるわ」 
 ポール=ギャリコの短編集をめくりながら、遠子先輩が甘いため息をもらす。 
 ぼくらが所属している聖条学園文芸部は、四階建ての校舎の三階の西の隅にあった。 
 夕暮れになると西日が差し込み、部屋の中が、蜂蜜を流し込んだようなあでやかな金色に染まる。 
 もとは物置に使っていたようで、壁際に段ボール箱がうず高く積まれ、真ん中に樫でできた古いテーブルがある。あとはスチール製の本棚が二つとロッカーがひとつ。これでもういっぱいいっぱいで、収納しきれない古い本が、あちこちに重ねてある。地震が来たら本の塔が崩壊し、ぼくらはそれに埋もれて、窒息死してしまうだろう。 
 古い本と埃の香りがする狭い部室で、遠子先輩はパイプ椅子の上に、ちょこんと体育座りしていた。 
 制服のひだスカートの奥が、見えそうで見えなくて、けどやっぱりちょっと足を動かしたら見えてしまいそうな、お行儀の悪い格好だ。 
 むき出しの膝頭に白い頬をあてて、膝全体を腕で抱え込むようにし、細い指で愛おしそうに、本のページをめくっている。 
 真っ白な額に黒い前髪がかかり、長い長い三つ編みが肩から腰へこぼれ落ちる。肌が白い分、髪や睫、瞳の黒さが際だつ。 
 黙っていれば、遠子先輩は大変お上品そうで、お人形さんのような人だった。 
 けど――。 
 白い指でおもむろに本のページを破くと、遠子先輩はそれをぱくりと口にくわえ、ヤギのようにむしゃむしゃ食べはじめた。 
(ああ、食べてる……食べてるよ。何度見てもシュールだ) 
 びりっ、カサッ、コソッ……。 
 むぐむぐ、こくんっ。 
 細い喉を可愛らしく鳴らしてページを飲み込むと、またびりっと破いて食べ、クールな表情から一転して、思いきり幸せそうに目尻を下げ、にっこりする。 
「やっぱりギャリコは美味しい~~~~! あのね、ギャリコはね、ニューヨーク生まれの作家で、映画の『ポセイドン?アドベンチャー』や、児童文学の『ハリスおばさん』シリーズなんかも有名だけど、わたし的に彼のベスト1は、『スノーグース』なの! 沼地の近くの灯台に住む孤独な画家ラヤダーと、傷ついた白雁を抱いて現れた少女フリスの静かで切ない魂のふれあい! お互いを深く優しく想いあいながら、決して言葉にはしない――! ああ、なんて清らかな恋! 
 いい? 心葉くん。ぺらぺらしゃべっちゃダメなのよ? 本当に大切な想いは、墓場まで抱いてかなきゃあ。口を閉ざし耐えるところに、切なさと美しさがただようのよ。ラストシーンは、何度読み返しても号泣だわ。ギャリコの物語は、火照った心をさまし、癒してくれる最上級のソルベの味よ。喉にするりと滑り込んでゆく食感がたまらないわ。『ジェニィ』も『ひとひらの雪』も、ぜひ読んで! 訳は断然矢川澄子さん推奨よ!」 
 ぼくは、でこぼこしたテーブルに、五十枚|綴りの原稿用紙を置いて、HBのシャーペンで三題噺を書いていた。今日のお題は、〝初恋?〝苺大福?〝国会議事堂?――なんかもうめちゃくちゃだ。 
 目を伏せ、マスをさらさら埋めながら、冷静に突っ込む。 
「ソルベの味って、遠子先輩は妖怪だから、文字以外のものを食べても、味がわからないんでしょう? 比べようがないじゃないですか」 
 すると遠子先輩は、頬をぷくっとふくらませた。 
「いいのっ。そこは想像力でカバーするのっ。あ~ソルベってこんな味かしら~って。それに妖怪って差別用語よ。わたしは、この世のありとあらゆる物語や文学を食べてしまうほど深く激しく愛しているごくごく普通の可憐な高校生で、ただの文学少女です」 
「一般的な女子高生は、いきなり本のページを引きちぎって、むしゃむしゃ食べたりしないと思いますけど。少なくともぼくの十六年の生涯で、そんな珍妙な女子高生は、遠子先輩以外見たことないし聞いたことないですよ」 
 遠子先輩がますます頬をふくらませ、わめく。 
「ひどぉ――い、女の子に向かって珍妙だなんてひどぉ――――い。傷ついた。心葉くん、きみって、家で薔薇の花にナンシーとかベティとか名前をつけて大事に育ててそうな優しい顔してるくせに、先輩に対してデリカシーが足りないと思うわ」 
「デリカシーが足りないのは、どっちなんだか」 
 遠子先輩は、あー、なによそれと不満そうな声をあげたけど、すぐに機嫌を直し、ぴょこんと椅子から降り、甘えるような目をして身を乗り出してきた。 
「まぁいいわ。わたしの心はアンドロメダ星雲のように広いから、生意気な後輩の失言のひとつやふたつは大目に見てあげる。それより〝おやつ?できた~?」 
 本当にわかりやすい人で、声がはずんでいる。猫ならごろごろ喉を鳴らしているだろう。 
 三年生の天野遠子先輩は、文芸部の部長で、物語を食べる妖怪だ。 
 水を飲みパンを食する代わりに、本のページや紙に書かれた文字を、美味しそうにむしゃむしゃ食べる。 
 一年前、ぼくはどういうわけか、この三つ編みの文学少女に文芸部に引っ張り込まれ、以来放課後になると、「おなかすいた~、なんか書いて~、書いて~」とねだられるまま詩やら作文やらを書き散らしているのだった。 
 二年に進級し、五月になった今も、文芸部の部員は部長の遠子先輩とぼくの二人きりだ。つい先日も、一年生がなかなかやってこないことに業を煮やした遠子先輩に、 
「心葉くん、部長命令よ。これ、お願い!」 
 と押しつけられた時季はずれの勧誘のビラを、校門の前で赤面しながら配りまくったけれど、新入部員がやってくる気配は一向にない。 
 このままこのおかしな先輩と二入きりで、文芸部を続けてゆくのかなぁ……。 
 そもそも二度と小説は書かないと決めていたぼくが、何故よりによって文芸部なんかにいるのか? もう書くこと自体、うんざりだったのに。 
 それが、ヘンな妖怪の先輩に、おやつの作文なんか書いてあげて、それが異様なことではなく、あたりまえのことになっているなんて……。 
 遠子先輩が、ポケットから銀色のストップウォッチを出して、ぼくに見せた。 
「ほらほら、残り時間はあと五分よ。尊敬する先輩のために、とびきり美味しいおやつを書いてね。ギャリコが、甘さ控えめすっきり爽やかだったから、今度はう~~~~~んと甘いのがいいわ。切ない物語も素敵だけど、恋愛小説はやっぱりハッピーエンドよね。相手が白血病で死んじゃうとか、心臓病で死んじゃうとか、飛行機事故で死んじゃうとか、苺大福を喉につまらせて死んじゃうとか、そういうのはナシにしてね」 
 決めた。 
 路線変更だ。 
 国会議事堂の前で再会した初恋の女の子が、突然空から降ってきた苺大福の箱に頭をぶつけて死んじゃう話にしよう。 
 遠子先輩はテーブルに頰杖をついて、にこにこしている。 
 一見落ち着いた雰囲気の美人なのに、ごはんやおやつを待っているときは食いしん坊光線全開で、思いきりガキっぽい。黒い目が、期待にキラキラ輝いている。 
「うふふ、肉筆で書かれた文章って、だ~~~い好きっ。そりゃ本で読む鴎外や漱石は熟練の味だけど、素人には素人の初々しさと魅力があるわ。特に、手で書かれた文字は、さらさら流れる小川の水を、手のひらですくって飲むような心地がするの! それに、もぎたてのトマトやきゅうりにかぶりつくような感じも! ちょっと泥の味がするのも、すっっっっごく美味しいの!」 
 ぼくの書く物は、トマトやきゅうりか……。 
 今、ぼくが、二年前に新人賞をとったあの謎の美少女ベストセラー作家だと告白したら、この人はどんな顔をするだろう。 
 もちろん、そんなこと口が裂けたって言いやしないけど……。 
「ほらほら、あと二分よ。ラストスパートよ。頑張れぇ~」 
 遠子先輩が声援をよこす。細い首を傾けて、上目づかいにわくわくと見上げてくる。 
 甘いね、センパイ。そうそう期待通りにはいかないのだよ。 
 と、そのときだ。 
「失礼しまぁぁぁす! きゃうんっ!」 
 ドアが開くと同時に、どさっという音がして、誰かが前のめりに転げ込んできた。 
 床にかえるみたいに倒れている女の子は、制服のスカートがめくれ、くまのパンツがもろ見えだ。 
 今年小学校に入学した妹が同じようなパンツを持ってたな、なんてことを考えていたら、「はう~」とか「うにゅ~」とかうめきながら体を起こした。 
 ところが、のばした手を本の塔にかけたとたん、それがどさどさ崩れてきて、また顔を床に打ち付けてしまった。 
「ひゃう!」 
 ドタンッ! 
「はう……は、はにゃ(鼻)が……はにゃ(鼻)が……」 
 手で鼻を押さえてひくひくしている女の子のほうへ、遠子先輩が慌てて駆け寄る。 
「心葉くん、きみは見ちゃダメっ」 
 そう言って、女の子のスカートの裾を急いで直してパンツを隠したけど、もう見ちゃったよ。それにぼくは、くまのパンツで欲情するほどマニアじゃないよ。 
「大丈夫?」 
 遠子先輩が肩を抱えて助け起こすと、女の子は床にぺたんとしゃがみ込んだまま、面目なさそうに真っ赤になった。 
「は、はい、すびばせん。あたし、よく転ぶんです。なんにもないところで転ぶのが特技なんです。慣れてるから気にしないでください」 
 それは特技とは言わないと思う。 
「えっとその、あたし、一年二組の竹田千愛っていいます。今日は、すっっっっっっごく大事なお願いがあって、文芸部さんにうかがいました」 
 ふわふわした髪を肩の上までのばした、小さくてふっくらした女の子だ。ミニチュアダックスフントとか、トイププードルとか、そんなイメージ。 
 ひょっとして入部希望者かな? 遠子先輩に配らされたビラの効果が現れたのか? 
 それはいい。後輩ができれば、遠子先輩のおやつ係を押しつけられる。 
 そんな淡い期待を抱いたとき、竹田さんが両手を握りしめ、決意のこもりまくった口調で言った。 
「どうかあたしの恋を叶えてください!」 
 ぼくは、ぽかんとしてしまった。 
「うち、文芸部なんだけど?」 
 竹田さんがぼくのほうを見て、力いっぱいうなずく。 
「はいっ! ポストを見てまいりました」 
「ポスト……?」 
 さっぱり意味がわからない。 
「中庭の隅っこの木にですね~、まるで隠れるよーにひっそりと郵便ポストが置いてありますよね? そこに、〝あなたの恋を叶えます。ご用の方はお手紙をどうぞ。by文芸部一同?って書いてあって、ガ―――ンというか、ビビビッというか、とにかく天啓を受けたんです。もう手紙を書く間も惜しくって、すっ飛んできちゃいました」 
 仰天したものの、すぐにピンときた。 
「遠子先輩!」 
 こんな突飛なことをしでかすのは、この人以外いない。 
 遠子先輩は竹田さんの肩に手をおき、笑顔を振りまいた。 
「まぁ、よく来てくれたわね。わたしが部長の天野遠子よ。全部わたしたちに任せておいて」 
 ぼくは立ち上がり、遠子先輩の後ろでわめいた。 
「待ってください、わたしたちって、ぼくも頭数に入ってんですか!」 
「ええそうよ、文芸部一同誠意を込めて、千愛ちゃんの恋をバックアップするわ」 
「千愛、感激です!」 
「冗談じゃない――むぐぐ」 
「そのかわり、ひとつだけ条件があるの」 
 ぼくの口に片手でぴしゃりと蓋をして、遠子先輩が神妙な顔つきで告げる。 
「千愛ちゃんの恋が成就した暁には、経過をみっちりしっかり書き綴った愛のレポートを提出してほしいの」 
「え~、れ、れぽーとですか? 千愛、作文苦手なんですけど」 
「大丈夫。千愛ちゃんは、ただ起こったこと、感じたことを、ありのままに書けばいいの。へんに技巧に走った文章より、普段書かない人が一生懸命綴った真実の言葉のほうが、胸にもおなかにも染みるものよ。思う存分のろけまくって甘い甘いお話、じゃなくてレポートを書いてちょうだい。あっ、パソコンはダメよ。必ずレポート用紙か原稿用紙に直筆でねっ。約束よ」 
 遠子先輩が竹田さんの指に細い指をからめて、嬉しそうにげんまんをする。 
 そうか、これが目当てだったんだな。 
 食い意地の張った遠子先輩は、ぼくの書くおやつだけでは食い足りず、恋愛相談ポストを設置して、相談者から恋のラブラブレポートを搾取することを思いついたのだ。 
 思いつくだけならいいけれど、それを堂々と実行に移してしまうところが遠子先輩の遠子先輩たる所以である。 
 これだから文学少女は油断がならない。 
 頭の中が文学してておよそ現実的じゃないから、目を離すとなにをしでかすかわからない。平気で他人を巻き込む。 
「はいっ。千愛、いっぱいレポート書けるように頑張ります」 
 竹田さんは非常~~~~に素直な性格らしく(もっともそうじゃなきゃ、そんな怪しいボストを見て、怪しい文芸部に訪ねてきたりしないだろうけど)、目をキラキラさせて遠子先輩を見上げている。頼りになる素敵なお姉様~とか思ってそうだ。 
 遠子先輩は推定Aカップのぺたんこの胸を、偉そうにそらして言った。 
「えへん、わたしたちは古今東西の恋愛小説を研究しつくしてる恋のエキスパート、そして文章のエキスパートよ。千愛ちゃんのために、とびきりのラブレターを書いてあげるわ。この井上心葉くんが」 
「ええっ!」 
 遠子先輩の美食への飽くなき欲望にあきれて、知らんぷりを決め込んでいたぼくは、ぎょっとした。 
「うちのエースの心葉くんが、千愛ちゃんの恋しい人のハートを打ち抜く名文を考えてくれるわ」 
「なに勝手なコト言ってんですか、遠子先輩! ぼくは、ラブレターなんて書いたことありません」 
 最後のほうは遠子先輩に口をふさがれて、もごもごとしか聞こえなかったに違いない。
「これまで何百通ものラブレターを書いてきた恋文専門作家の心葉くんも、ぼくに任せてくれと言ってるわ。心葉くんは、あだたら恋の文学コンクールで、最終選考にまで残ったこともある強者よ」 
 なんですか、その地元民も知らなそうな、どマイナーな文学コンクールは。 
「わぁ、すごいです~。そんな立派な作家さんに書いていただけるなんて嬉しい」 
 作家じゃないってば! 
 いや、その、作家だったこともあったりするけど……ベストセラーになったりしたけど……。けど! 今のぼくは普通の高校生で、遠子先輩の単なるおやつ係で、ラブレターの代筆なんてできるわけがない。 
 ところが、ぼくがごちゃごちゃ考えているうちに、話はとんとん拍子にまとまってしまい、 
「お願いしますねえ、心葉先輩!」 
「ええ、ばっちりよ。ねぇ、心葉くん」 
 ぼくは女の子のふりをして、ラブレターを書くことになってしまったのだった。 


追記 
 竹田さんが帰ったあと、ぼくが書いた三題噺を食べながら、遠子先輩はべそをかいた。
「やだぁ、苺大福の箱が落っこってきて初恋の人が死んじゃった~~~~~。やだぁ、やだぁ、ヘンな味~~~~。お豆腐のお味噌汁に、あんこを浮かべたみたい~~~。ぐすっ、ひっく、マズイよ~~~」 




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分类: 日语天地
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