�文学少女�と繋がれた愚者《フール》:一章 ごはんは、残さず食べましょう

发表于:2015-05-05 18:58 [只看楼主] [划词开启]
时间:2015-05-05 18:58~2015-05-30 02:00
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知道了

一章 ごはんは、残さず食べましょう

 

「『野菊の墓』は、摘み立ての杏の味ね」

 図書室で借りた文学全集をめくりながら、遠子先輩は甘い声でつぶやいた。

「夕日に照らされた畦道で、茜色に染まった杏の実を、指先で優しくつまんで口に含み、そぉっと歯を立てる感じなのっ。薄い皮が破けて、やわらかな酸味と幸せな甘さが舌にじんわり染みこんで、切ない苦さに、胸がきゅっと締めつけられるのよ! あぁ、少年時代の甘く儚い初恋の記憶!

『野菊の墓』の作者の伊藤左千夫は、正岡子規の弟子で、明治三十九年、雑誌『ホトトギス』にこの作品を発表して、夏目漱石に絶賛されたのよ。やっぱり名作っていいわぁ。杏が毎年違う実を結ぶように、何度食べても、そのたび新鮮で美味しいの!」

 ぼくは、古い樫の木のテーブルで、五十枚|綴りの原稿用紙を広げて遠子先輩のおやつの三題噺を書いていた。

 最近、遠子先輩の中で日本の古い恋愛小説がブームなのか、昨日は鴎外の『舞姫』、その前は川端康成の『伊豆の踊子』、その前は樋口一葉の『たけくらべ』を読んで、熱心に蘊蓄を垂れていた。

「それ、公共物ですから。食わないでくださいよ」

 シャーペンを走らせながら、冷静に注意すると、

「もぉ、わかってます」

 頬をふくらませて答える。以前この人は、図書室の本をうっかり食べてしまい[#「うっかり食べてしまい」に傍点]、一人で謝りに行くのは恥ずかしいとごねて、後輩のぼくを無理矢理|付き添わせたのだ。

「あぁ、でも、美味しそう」

 すぐに切なそうな溜め息をつく。まるで、フルーツパーラーのウインドウの前で、物欲しそうに指をくわえている幼稚園児のようだ。

「食っちゃダメですよ」

「わかってますってば。あぅ〜、ここ、一際酸っぱくて、美味しいのよね〜」

「本当に食わないでくださいね」

「はいは〜い。心葉くんのおやつができるまで、おとなしく待ってます」

 ひなたぼっこをしている猫の表情で、のんびり答える。

 校舎の西の端にある部室は非常に狭く、古い本があちこちに塚を築いている。窓際にパイプ|椅子を置いた遠子先輩は、そこに足を乗せて座り、窓からこぼれる秋の日差しを浴びて、細い指で本のページをめくっている。白い|膝小僧がひだスカートの下からのぞいていて、猫の尻尾のような黒くて長い三つ編みが、肩から腰にこぼれ落ちている。

 遠子先輩は、物語を食べる妖怪だ。

 本のページや、紙に書かれた文字を、指で千切って口に入れては、はむはむ噛みしめ、こくりと飲み込む。

 もっとも、�妖怪�というカテゴライズは、本人は大いに不満らしく、

『わたしは妖怪じゃありません。ただの�文学少女�です』

 と、腰に手をあて主張する。

 確かに、異様に本好きなのと、その本を愛するあまりぱりぱり食べてしまう以外は、古風で清楚なお嬢さんに見えないこともないのだけど----。

 聖条学園の文芸部には、三年生の遠子先輩と、二年生のぼくの、二人きりしかいない。

 秋も半ばをすぎ、他の部ではとっくに引き継ぎが行われているというのに、一体遠子先輩はいつ引退するのだろう? 聖条は進学校だし、遠子先輩も一応受験をするんだよな……? 全然勉強をしている様子はないけど、大丈夫なのか? まさか留年して、あと一年、居座る気じゃあ……。

 ひそかに不安になったとき、遠子先輩が話しかけてきた。

「来月は文化祭ね。わたしのクラスはカレー屋さんをするのよ。心葉くんのとこは?」

「漫画喫茶です。椅子と机を並べて、インスタント珈琲とティーバッグの紅茶を用意して、漫画本を並べておけばいいから、楽ちんですよ。文化祭とか体育祭とか興味ないし、どうでもいいです」

「もぉ、そういう冷めた言い方、よくないと思うわ。心葉くんって若者らしくない」

「文化祭に命かけてる高校生のほうが、珍しいと思いますけど」

「つまらなそうな顔をしていると、そのまま固まっちゃうんだから」

 頬をプンとふくらまし、ページをめくっていた遠子先輩が、いきなり叫んだ。

「ああっ!」

 ちょうど最後の「。」を打ち終えたぼくは、驚いて顔を上げた。

 なんだ、なにが起こったんだ?

 遠子先輩は両手で本を持ち、目を見開き、わなわな震えている。

「こ、この本、ページが足りないわ。�民さんは野菊のような人だ�という、あの名|台詞がないわ。二人の初々しいやりとりが、丸ごとすっぽり抜けてるわ。ここが一番美味しいのに! ああぁ、なんか切った痕があるぅぅぅ、ひどーい」

「……遠子先輩」

 ぼくはふーっと溜め息をつき、額に手をあてた。

「な、なに? 心葉くん? その呆れているようなリアクションは。ひょっとして、わたしが食べちゃったと思ってる!?」

「公共物は食わないようにと、あれほど忠告したのに……ぼくは情けないです」

「違うわっ。わたしじゃないわ。わたしは心葉くんとずっと一緒にいたんだから無実よ」

「ぼくがおやつを書いている間に、こっそりつまみ食いしたんじゃないですか?」

「あーっ、やっぱり先輩のこと疑ってるぅ。ひどい! わたしはそんなことしません! いくら本屋さんと図書館が美味しいもの見本市でも、おなかがすいているときに、うっかり足を踏み入れちゃって、本の背表紙を眺めるだけで口の中によだれがたまってきて、おなかがくーくー鳴っちゃっても、ちゃあんと我慢してるもの!」

 ぺたんこの胸をそらして、断固として主張する。

「それに、美味しいところだけつまんで、あとは残すなんて邪道よ。わたしは最初から最後まで全部|綺麗に食べ切るわ。それが作者に対する礼儀というものよ」

 その言葉には説得力があった。遠子先輩は、どんな本でも嬉しそうに最後まで食べきるし、たまにぼくが好みにあわない三題噺を書いたときも、辛いとか苦いとかベソをかきながら、最後の一欠片まで飲み込む。

「確かに、食い意地張った遠子先輩が、食べ残しをするはずありませんね」

 うなずきながらつぶやくと、唇をへの字に曲げ、すねている目になった。

「うぅ、先輩への尊敬が感じられない」

 そうして本を閉じ、パイプ椅子から勢いよく立ち上がった。

「とにかく! 一番美味しい、とっておきのシーンを食べちゃうなんて許せないわ! それって茶碗蒸しの銀杏だけ、こっそり食べてしまうようなものよ! ショートケーキの苺だけ盗み食いするようなものよ! シーフードグラタンから海老だけ抜き取るようなものよ! 待ちに待った至福の瞬間を横から奪い取り、絶望の淵に突き落とす悪魔の所行だわ! すべての美食家----いえ、読書家の敵! 文芸部の敵だわ! これはなんとしても犯人を突き止めて、とっちめてやらなきゃ。早速調査よ、心葉くん!」

 遠子先輩が、勇ましく言い放つ。

 そう来ると思ったんだ。冗談じゃない、毎回遠子先輩の探偵ゴッコにつきあわされてはたまらない。ぼくは、できたてほやほやの三題噺を切り取り、遠子先輩のほうへ差し出した。

「おやつ----書き終わったんですけど、あとにしますか?」

 今まさに、部屋から飛び出して行こうとしていた遠子先輩の足が、ぴたりと止まる。

「う……」

 本日のお題は�宮本武蔵��ホットカーペット��盆踊り�----書きはじめる前に、

「秋といったら、栗よね〜、和栗のモンブランみたいなお話を書いてねっ」

 なんて、椅子の背を抱え込んで嬉しそうに言っていたけれど、どんな味になっているのかは知らない。

 ぼくの指先で、ひらひら揺れる三枚の原稿用紙を、遠子先輩はまるで人参をぶらぶらされている馬のように、物欲しそうな顔つきで見つめている。

 やがて、椅子にすとんと座り直すと、お花のような笑顔で両手を差し出したのだった。

「今、食べるわ。いただきまーす」

 

追記

 ぼくが書いた�モンブラン�のような三題噺を、遠子先輩は絶叫しながら完食した。

「いやぁぁぁっ! 宮本武蔵が、ホットカーペットと盆踊り対決してる〜〜〜〜。ホットカーペットにくるまれて、黒焦げになっちゃった〜〜〜〜。やぁ〜〜、このマロンペースト、熱くてねちょねちょしてる〜〜〜〜。栗の代わりに桜島大根が入ってるぅぅぅ。マヨネーズがかかってるぅ。気持ち悪〜〜〜〜い。うぅ……あぅ……ぅぅぅ……」

 最後は口を押さえて、パイプ椅子にもたれてぐったりしてしまい、捜査は中止になり、ぼくは難を免れたのだった。

 

 翌日は、秋晴れの上天気だった。

 昨日、遠子先輩はだいぶダメージを受けていたようだったけれど、無事に家に辿り着けたのだろうか……そんなことを考えながら、教室に足を踏み入れると、クラスメイトの琴吹さんとはち合わせた。

「あ……」

「い、井上っ」

 廊下に出ようとしていた琴吹さんが、即座に後ずさり、表情をこわばらせる。

 ぼくは世間様向けの爽やかな笑顔を作り、友好的に挨拶をしてみた。

「おはよう、琴吹さん」

 すると琴吹さんは、目を三角にしてぼくを睨み、

「相変わらず締まりのない顔っ。なんで井上って、誰にでもへらへらしてんの。そこ、どいて」

 と、足早に歩いていってしまった。

 夏に琴吹さんが、病院でぼくを庇ってくれたと聞いたとき、もしかしたらそんなに嫌われているわけではないのかと思ったりしたのだけど、二学期に入ってからも琴吹さんの態度は相変わらずだ。もともとキツイ系の美人で、愛想のよい人ではないけれど、ぼくに対しては本来の性格に輪をかけて、目つきや言動が刺々しいような気がする。

 病院のベッドで、琴吹さんがうなだれて泣きそうな顔をしたのは、目の錯覚だったのだろうか? あのとき琴吹さんが言った言葉が、ひそかに気になっているのだけど、とても聞けそうにない。

 溜め息をついて机に鞄を置くと、クラスメイトの芥川くんが近づいてきた。

「おはよう、井上」

「あっ、おはよう、芥川くん」

 芥川くんは、琴吹さんとのやりとりを見ていたようだ。「気にするな」と慰めてくれる。

 ぼくは笑って見せた。

「ありがとう。けど、今さらだから」

「そうか」

「うん。琴吹さんが、急に愛想よくなったら、びっくりして腰をぬかしちゃうよ。あ、数学の宿題の答え合わせをしてもいいかな?」

 机の上にお互いのノートを広げ、短い言葉を交わす。芥川くんのノートは、いつもきちんと整理されていて、見やすい。真面目で穏やかな性格が、字にも表れている。

 広い肩や高い背、涼しげで男らしい顔つき、冷静さ、誠実さ、安定----芥川くんは、ぼくが憧れるものをたくさん持っている。友達と呼べるほど密接ではないけれど、彼と一緒にいるのは心地よかった。

 そのとき、芥川くんのズボンのポケットが震えた。

「すまない」

 携帯電話を出して画面を確認し、眉をひそめる。

 画面を睨みつける顔が、ひどく暗く、すさんだ雰囲気を漂わせていたので、ぼくはドキッとした。

 芥川くんは硬い声で、もう一度、すまないとつぶやくと、廊下へ出ていってしまった。

 電話、誰からだったんだろう?

 家族? 友達? それとも恋人?

 けど、芥川くんから女の子の話って聞いたことがない。穏やかな人なので、一瞬見せた嫌悪の表情が引っかかった。芥川くんでも、あんな顔をするんだ……。

 

 それが、トラブルのはじまりだなんて、このときは思いもしなかった。

 

 誰かに見られていると感じたのは、昼休みに廊下を歩いているときだった。

「井上、くん?」

 か弱げな声で呼ばれて振り返ると、艶やかな髪を背中にたらした、大人しそうな女の子が立っていた。

 あれ、この子、ぼくらと同じ学年の子だ。名前は知らないけど、たまに見かける。綺麗な子なので印象に残っていたのだ。ぼくになんの用だろう?

 女の子は、緊張で一杯一杯の様子で口を開いた。

「ごめんなさい、急に呼び止めたりして。あの、わたし、三組の更科というの。井上くんは、一詩くんの友達、だよね?」

「カズシくん?」

「あ、ごめんなさい」白い頬が、ぱっと赤くなる。「井上くんのクラスの、芥川一詩くんのこと。わたし、一詩くんとつきあってるの」

 芥川くんの彼女!?

 ぼくは驚いて、まじまじと見返してしまった。更科さんは、必死な感じの表情で、ぼくを見つめている。髪はしっとりとやわらかそうで、顔立ちは清楚で優しげで、文句なしの優等生風美少女だ。芥川くんと並んだらさぞお似合いだろう。

 けど、芥川くんに彼女がいるなんて初耳だ。モテるのは知ってるし、ついこの間も、可愛らしい水色の封筒が、教科書に挟んであったので、「ラブレター?」と訊いたら、困ったように言葉を濁していたけれど……。

 もっとも、ぼくと芥川くんは、お互いの家族のこともよく知らない程度のつきあいだから、彼に恋人がいても不思議ではない。

「えーと、ごめん。芥川くんに彼女がいるって知らなかったから」

 とたんに更科さんの表情が曇る。あ、失言だったか。

「……一詩くん、わたしのこと、井上くんにも話してないのね」

「いや、実は、芥川くんとぼくは、それほど親しいわけじゃ……」

 慌てて取り繕う。けれど更科さんは、ぼくの言葉は耳に入っていないようだった。

「一詩くん、最近、様子がおかしいの。わたしのこと避けてるみたいで……もしかしたら、他に好きな子ができたのかもしれない」

 黒い瞳に涙が浮かんでゆくのを見て困ってしまった。こういうのは苦手だ。とりあえず優しく言ってみる。

「それは誤解じゃないかな? 芥川くんは、二股かけられる性格じゃないと思うよ? 気になるようだったら、本人に尋ねてみたらどうかな」

 すると更科さんは、ますます目をうるませて、じっとぼくを見た。

「井上くん、訊いてくれないかな?」

「えっ!」

「わたしからは怖くてとても訊けない。井上くんなら友達だから、一詩くんも本当のことを話してくれると思うの。ねぇ、一生のお願いよ、井上くん」

 

 弱ったなぁ。なんで引き受けちゃったんだろう。

 放課後、ぼくは芥川くんに、どう切り出すべきか迷っていた。

「さよなら、井上」

 芥川くんが、教室から出て行く。マズイ! ぼくは慌てて後を追った。

 仕方がない。嫌なことは早くすませてしまおう。深刻なムードにならないよう、さらりと尋ねればいいんだ。

『芥川くん、今、つきあってる人いる? 知り合いに頼まれちゃってさ』----。

 ところが、前方を悠々と歩く彼との距離は、一向に縮まらない。芥川くんは弓道部員で、一年のときからレギュラーで活躍している。てっきり道場へ行くのかと思ったら、図書室へ入っていった。

 そのままカウンターからどんどん遠ざかり、部屋の一番|隅にある、日本の文学作品が並ぶ薄暗いコーナーで立ち止まり、本を物色しはじめた。棚から本を抜き取っては、ページをぱらぱらめくり、また棚に戻す。

 随分熱心に選んでいるみたいだけど、調べ物でもしているのだろうか?

 緊張しているせいか、周りが異様に静かに感じられ、唾を飲み込む音まで聞こえそうだ。棚の裏で、じっと息を潜めたまま声をかけるのをためらっていると、芥川くんが、肩に提げた鞄から、折りたたみ式のカッターナイフを取り出した。

 え?

 指先でパチンと刃を立てる。キラキラ光る切っ先が、目を射た。

 ? なにをしているんだ?

 様子がおかしいことに気づき、手に汗がにじんだ。息を押し殺し、瞬きもせずに見守っていると、芥川くんは険しい眼差しで、カッターの先を本の合わせ目にあてた。

 まさか----。

 心臓がドキンと音を立てる。

 そのまま、手慣れた様子でカッターを下へ移動させた瞬間、皮膚に直接|刃を突き立てられたような気がして、びくっとした。

 昨日、遠子先輩がふくれっつらで広げてみせた『野菊の墓』が、脳裏にくっきり思い浮かぶ。

 あるべき場所に存在しないページと、ナイフで切り取られたような痕----。

 

 芥川くんが、本を傷つけた犯人なのか!?

 

 棚の端をつかんだ瞬間、本に指が触れ、それが隣の本にあたり、小さな音を立てた。

「!」

 振り向いた芥川くんが目を見開き、茫然とぼくを見つめる。

 ぼくは信じられない気持ちで、その顔を見つめ返した。

 芥川くんが、苦しげに眉根を寄せる。

 頭が熱く痺れ、まともに思考が働かない。

「芥川くん。どうしてきみが、こんなこと……」

 どうにか声を絞り出したときだ。

 脇から、女子の制服に包まれた腕が、にゅーっと伸びてきて、カッターを握る芥川くんの手を、大胆に押さえつけた。

「つかまえたわ! 現行犯よ!」

 猫の尻尾みたいな長い三つ編みを揺らし、息をはずませて飛び出してきたのは、セーラー服に身を包んだ文学少女----文芸部の部長・天野遠子先輩だった。

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

[#ここから太字]

 自分が卑劣で下等な人間であると気づかされたあの日以来、オレは周囲の人間に対して、誠実であろうと努めてきた。

 すべてが切り裂かれ、生温かい血に染まり、オレの手の及ばない場所へ過ぎ去ってしまったあの罪の日から、オレは、二度と愚かな選択をしないよう用心深く振る舞ってきたつもりだ。

 きみの願いに対しても、真摯な態度で臨めたらと思う。

 きみが、どんな想いで、そしてどんな労力を払ってこの手紙を書いたのかを考えると、胸が焼けつきそうになり、きみに対して、できるかぎりのことをせすにはいられない気持ちになる。

 だが、きみの要求は酷すぎる。オレはオレなりに誠意を尽くし、きみにオレのできる精一杯の対応をしたつもりだが、それでもきみは、納得できないだろうか。

 きみの望みを叶えることはできない。それは、すべてを破滅に導く、悪魔のように不実な行為だ。

[#ここまで太字]

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

「さぁ、どうして図書室の本を切ったの? きっちり説明してちょうだい」

 古い本に占拠された文芸部の部室で、遠子先輩はドラマに出てくる鬼刑事のように凄んでみせた。表面がでこぼこで脚が不安定な樫のテーブルには、有島武郎の作品集が、切り取られたページと一緒に並んでいる。

 芥川くんは椅子に座り、静かにうつむいていた。

 昨日、ぼくのおやつを食べて具合が悪くなり、捜査を断念した遠子先輩は、放課後早早、切り裂き犯を捕まえるべく図書室で張り込みをしていたという。

「犯人は現場に戻るという、わたしのヨミは当たったわね。掃除をサボって、棚の後ろに、空腹をこらえながら三十分もしゃがみ込んでいたかいがあったわ」

 と、得意げに言われて、ぼくは頭が痛くなってしまった。

 遠子先輩は、そのまま芥川くんを部室に連れ込んだのだった。

「きみが切り取ったのは、『一房の葡萄』の中の一場面よ。級友の絵の具を盗んでしまった少年が、みんなの前でそのことを暴かれ、先生に呼び出されて、恥ずかしさに張り裂けそうな思いでいたとき、先生が、膝の上にそっと葡萄の房を置いて慰めてくれるという、心あたたまる名シーンよ! この物語の一番美味しいシーンなのよ! ねぇ、中身の入っていない皮だけの葡萄を食べるハメになった人間の痛みと哀しみを、きみは想像したことがある?」

 とんでもないことだわ! というように遠子先輩が声を震わせる。

「一般的な高校生は、そんな想像しないと思いますけど……」

 つい突っ込みを入れると、

「心葉くんは黙っててっ」

 と、睨まれた。

「いくら心葉くんのお友達でも、食べ物を冒涜----いいえ、崇高な書物を傷つけるような行為を、�文学少女�たるわたしが見逃すわけにはいかないわ。一体どんな理由で、あんなことをしたの?」

「それは……」

 芥川くんが口を開きかけたとき、遠子先輩の声のトーンが、いきなり上がった。

「わたしの推理はこうよ。ずばり、きみは自然主義の信奉者ね。愛読書は田山花袋の『蒲団』だわ」

 思いもよらない発言に、ぼくも芥川くんも遠子先輩のほうを見て、ぽかんとしてしまった。遠子先輩が、自信たっぷりに鼻をひくつかせる。

「きみが無体を働いた『一房の葡萄』の作者の有島武郎は、明治末期に創刊された芸術家集団|白樺派に集った文士の一人だわ。この人道主義、理想主義を高らかに謳い上げた白樺派と対をなす、現実を客観的に描くことを目指した文学が、田山花袋に代表される自然主義よ。もともと白樺派は、自然主義への反発から起こった思潮でもあるの。なので、わたしはすぐにピンときたわ。これは自然主義を心から支持する人間の、若さと愛情ゆえの暴走だって」

 暴走しているのは、遠子先輩の想像力です。

 肩を落としてがっくりするぼくの横で、芥川くんが冷静な口調で言った。

「いや、それは誤解です」

「えっ! ち、違うの……?」遠子先輩が、目をぱちくりさせる。

「……はい」

 狭い部室に、白々した空気が流れる。

「じゃあ、どうして、本のページを切ったりしたの?」

 おずおずと不思議そうに、首を傾げた瞬間、細くて長い三つ編みが、薄い肩からはらりとこぼれ落ちた。

 芥川くんは遠子先輩のボケっぷりを見て落ち着いたのか、背筋を伸ばし誠実な眼差しで語りはじめた。

「中間試験の成績が思わしくなくて、苛ついていたんです。以前から、なにかを傷つけたい----切り裂きたいという欲求があって……それが、本を切ることで満たされるような気がして、つい切ってしまいました」

 試験の成績が思わしくないって、芥川くん、中間試験は学年で五位じゃなかったっけ? うちの学校で、部活をしながらその位置なら、じゅうぶんじゃないか? それとも芥川くんにとって五位は、苦しさに身悶えるほどの落第点なのだろうか?

 日頃から、「数学は、三十点以上とったことがないわ」と自慢(?)している遠子先輩も、信じがたそうな顔をしている。

「テストの点数が悪くて、本を切っちゃったの?」

「はい」

「それだけ?」

「はい」

「本当に、自然主義は関係ないの?」

「それは、全く関係ありません」

 遠子先輩の眉が残念そうに下がってゆき、三つ編みの先をいじいじといじったりする。

 芥川くんは背筋を伸ばしたまま立ち上がり、ぼくらに向かって深々と頭を下げた。

「ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。これから図書室へ謝りに行って、切った本を弁償します」

 そのまま出て行こうとするのを、遠子先輩が呼び止めた。

「待って! 反省しているのなら、わざわざ名乗り出る必要はないわ」

 振り返る芥川くんに、張りつめていた空気が溶けるような呑気な顔で微笑んでみせる。

「もちろん弁償はしてもらうけど。ラッキーなことに、わたしは図書委員に顔が利くのよ。虫が食ったことにして、文芸部のOBに新しい本を寄付してもらいましたと言って入れ替えてもらうわ。文芸部の株も上がるし、一石二鳥よね」

 ぼくも急いで、うなずく。

「うん、それがいいよ。そうしよう、芥川くん」

 遠子先輩も、たまには役に立つじゃないか。あとでうんと甘い作文を書いてあげようなんて思ったときだ。

「けど! それできみの抱える問題が解決するわけじゃないわ。この先、きみがすべての悩みから解放されて、晴れ晴れとした気持ちで学園生活をエンジョイするために、必要なことがあるわ。それは仲間とともに、心の底から熱くなることよ。青春の息吹がストレスを空の彼方に吹き飛ばすのよ!」

 なんだか雲行きが怪しくなってきた。芥川くんも、怪訝そうに眉をひそめている。

 そんな彼に向かって、遠子先輩は満面の笑顔で言ったのだった。

「だからね、芥川くん。文化祭で、わたしたちと一緒にお芝居をしない?」

 

「どういうことですか! 文化祭で劇をやるなんて聞いてませんよ!」

 芥川くんがすっかり毒気を抜かれた顔で「考えさせてください」とつぶやいて出ていったあと、ぼくは遠子先輩に詰め寄った。

 遠子先輩がパイプ椅子の背を抱きかかえ、嬉しそうな顔でぼくを見上げる。

「でも、もう、実行委員会に申請して、ステージを押さえちゃった」

「なっ!」

「だって麻貴に、オケ部は専用ホールでコンサートを開くけど、文芸部は今年も暇でしょう? って嫌味を言われて悔しかったんですもん。去年だって、部誌の一冊も出せずに、古典作品の展示をしただけだし……。しかも、お客さんが全然来なくて、心葉くん、クロスワードパズルをして遊んでたでしょ」

 途中から、ぷくっと頬をふくらませて睨んでくる。ぼくは呆れた。

「部誌の一冊も出せなかったのは、遠子先輩が全部食っちまったからでしょう」

「そうだったかしら? とにかく、今年は、人数が多いだけのオケ部なんかに負けていられないわ。それに、文化祭の劇を見て、文芸部の素晴らしさを知って、入部してくれる人がいるかもしれないもの」

 どちらかと言えば、あとの問題のほうが切実なのだろう。前から遠子先輩は、部員の少なさを気にしていて、「心葉くんは甲斐性なしだし、わたしが卒業したとたん、文芸部が潰れちゃったらどうしよう」と、心配していた。

「いい? 心葉くん? これは先輩命令よ。きみも、文芸部の一員として文化祭で文芸部の存在をアピールして、部員を一人でも確保すべく、粉骨砕身するのよ」

 出たっ。遠子先輩の『先輩命令よっ』が。ぼくは目立ちたくないし、平和に暮らしたいのに。

「二人しか部員がいないのに、劇なんてできるんですか?」

 とたんに遠子先輩が、にっこりする。

「だから芥川くんを誘ったんじゃない。文化祭に出ると決めたときから、彼なら女の子のお客さんを呼び込めそうだわって目をつけていたのよ。心葉くんに口説いてもらうつもりだったんだけど、手間がはぶけたわ。これも、わたしの人徳ね」

 それ、芥川くんの悩みと全然関係ないじゃないか。遠子先輩の一方的な都合じゃないか。なのに遠子先輩に弱みを握られて、わけのわからない劇に引っ張り込まれようとしている芥川くんに、ぼくは深く同情した。

「一体どんな劇をするんですか?」うさんくさそうに尋ねると、

「もちろん、文芸部にふさわしい、青春の息吹あふれる、切なく美しい文芸大作よ! 衣装のことを考えると、やっぱり日本の明治以降の作品がいいと思って、この一週間、選考に選考を重ねたわ」

 それで、古い恋愛小説ばかり読んでいたのか。

 遠子先輩は椅子から立ち上がり、積んであった本を手に取り、高らかに告げた。

「そうして選んだ演目が、この武者小路実篤の『愛と死』よ!」

「武者小路? その人も白樺派ですよね?」

 授業で習ったことを思い出しながら言うと、遠子先輩は嬉しそうにうなずいた。

「ええ、そうよ! 芥川くんが、同じ白樺派の有島武郎の作品集を切ったことに、運命を感じるわ」

 そんなことで、運命を感じないでほしい……。

 遠子先輩は、ここぞとばかりに語りはじめた。

「武者小路実篤は一八八五年----明治十八年、五月十二日に子爵家の末っ子として誕生するわ。といっても、彼の父親は早くに亡くなったので、お家はそれほど裕福というわけではなくて、節約生活を送らなければならなかったのだけど。

 学習院に進学した彼は、そこで出会った志賀直哉たちとともに、同人雑誌『白樺』を創刊し、その中心人物として、人間の持つ美しさや善意を力強く描き出した作品を、数多く残したのよ! やっぱり青春といったら、白樺派よ! 大正デモクラシーよ!

 極限まで削ぎ落とされた知的な文体で『城の崎にて』や『小僧の神様』などの名作を残し、小説の神様と呼ばれた志賀直哉! 血が迸るような熱い文章で、人間の運命や情念を描ききった有島武郎! 豊かな心理描写とリズミカルな文体を駆使して、己の心の欲するところに身をゆだねる�まごころ哲学�を確立した里見!

 志賀直哉の作品が、名人が打った喉越し滑らかで腰のある究極の蕎麦なら、有島武郎の作品は、レモンをかけていただく、ねっとりとした生牡蠣。里見は、表面がつるつる滑る里芋の煮っ転がしみたいな感じなの。どれも舌が震えるほどに美味しくて、食べ過ぎてしまうわ。有島の『生まれ出づる悩み』と里見の『極楽とんぼ』は必読よ。

 そして、忘れてはいけないのが、この人! 武者小路実篤よ! わたし的には、白樺派といったら、武者小路なの! 仰々しい名前や華族の出であるということから、書いているものも敷居が高くて難しいんじゃないかと誤解されがちだけど、実際に作品に触れてみれば、娯楽性の高さや、文章の読みやすさに衝撃を受けるはずよ。

 武者小路の特徴は、なんといっても会話の多さと、その軽妙さね。ページを埋めつくすほどの長台詞が出てくることもしょっちゅうだけど、すべてにリズムがあって、すらすら読み進めることができるの! 言うなれば武者小路の作品は、一流の料亭でいただお豆腐料理のようなものよ。食感はさっぱりあっさりしていながら、大豆の風味が絶妙の甘さとコクをかもしだし、あとを引くような苦りがあって、最後の一口まで食べ終えた瞬間、あぁ、美味しかったなぁって、溜め息をついてしまうのよ」

 目を閉じ本当に溜め息をついたかと思ったら、ぱっと目を開け、うきうきと顔を近づけてくる。

「中でも彼が書いた『愛と死』のヒロインの夏子は、文学史上|屈指の可憐なヒロインよ。真っ白なお豆腐みたいにピュアで爽やかで、なにもかけずにそのままいただいても、美味しいの! 留学してしまった主人公と手紙のやりとりをするのだけど、その文面がそりゃもう初々しくて、胸がキュンとしてしまうのよ。それにねっ、それにねっ、登場シーンもキュートで可愛いのっ。お庭で、女学生が集まって、逆立ちの競争をしているのよ。夏子は逆立ちの名人で、宙返りもできちゃうの。お兄さんのお誕生日の宴席で、見事な宙返りをきめて、お客さんたちの拍手喝采を浴びるのよ!」

「待ってください!」

 際限なくしゃべり続ける遠子先輩を、ぼくは強引に遮った。

「宙返りするヒロインって、それ、根本的に無理です! んなもん誰がやるんですか?」

「あら、逆立ちくらい誰でもできると思うわ。宙返りだって、でんぐり返しの練習をしてたら自然にできちゃったって、夏子も言ってるから平気よ」

 能天気に笑う遠子先輩に、ぼくは厳しく断言した。

「無理です。少なくとも、バレーのボールを顔で受けたり、アタックをしようとしてネットに突っ込んだり、ソフトボールで、振り回したバットで自分の頭を叩いたり、水泳の授業でカッコつけてバタフライをしようとして、足がつってプールで溺れている遠子先輩には、絶対無理です」

 遠子先輩が真っ赤になる。

「どうして、わたしの恥ずかしい姿を、そんなに目撃しているの」

「遠子先輩が、しょっちゅう恥ずかしいことをしてるからです。自分が重度の運動|音痴だと自覚してください。逆立ちも宙返りも、遠子先輩には無理です」

 その言葉にカチンときたらしい遠子先輩が、頬をふくらませる。

「そんなことないもん。文芸部への愛があればできるもん」

「文芸部、関係あるんですか」

「ええ、物語への愛は、すべてを可能にするのよ。逆立ちのひとつやふたつ、へいちゃらだわ。わたしの愛のパワーを見せてあげる」

 壁に向かって逆立ちをしようとするのを見て、ぼくは慌てた。

「やめてください。怪我をしたらどうするんですか! それに、その格好で逆さまになったら、スカートがめくれてパンツが丸見えですよ!」

「体育のハーフパンツを穿いてるから平気よ。目を開いて、よぉぉぉぉく見てらっしゃい!」

 遠子先輩が両手を高く上げ、壁に向かって勢いよく踏み込む。

「わ--------、ストップ、遠子先輩!」

 ひだをたっぷりとったスカートがひるがえり、白く細い足が、宙に伸びる。

 小さなお尻を包む黒いハーフパンツが、ちらりと見えたとき、伸びた足が前に傾き、悲鳴があがった。

「きゃあ!」

「あ、危ない!」

 とっさに遠子先輩の足首をつかむ。けれど右足しかつかめず、そのまま一緒に、本の塚に向かって倒れ込んでしまった。

 積み重ねられた本が雪崩のように、ぼくらの上に降りかかってきて、塵と埃がもうもうと舞い上がる。さらに、倒れた本の塚が、その隣の塚を倒し、またその隣の塚も崩れ、といった具合に、狭い部室に本が散らばり、大惨事になってしまった。

 大量の本の下敷きになった遠子先輩は、埃を吸い込みくしゃみをしながら、涙目で言った。

「くしゅん。やっぱり、他のお話にしたほうが、いいみたい」

 

 どうにかして遠子先輩に、劇の上演をやめてもらえないだろうか。

 翌日。教室の席で、渋い顔で思案するぼくの前に、芥川くんがやってきた。

 思わず背筋を正すと、芥川くんは普段と変わらない静かな表情で言った。

「昨日は、井上や天野先輩に面倒をかけてすまなかったな」

 穏やかな口調にホッとし、ぼくもいつも通り微笑んでみせる。

「気にすることないよ。そりゃ驚いたけど、苛々することは誰にでもあると思うし」

 そうだ! 芥川くんが劇に出ないと言えば、遠子先輩もあきらめるかもしれない。

 ぼくは身を乗り出した。

「劇のことだけど、遠子先輩が勝手に盛り上がっているだけだから、断ってもいいよ。なんなら、ぼくから遠子先輩に話しておこうか?」

 ところが芥川くんは、真面目な顔で言ったのだった。

「いや、出演させてもらうことにした。オレは地味な人間で役者の素養もないから、井上たちの足を引っ張るかもしれないが、精一杯やらせてもらうつもりだ。よろしく頼む」

 って、ええええええええっ!

 

 放課後。狭い部室に集まったメンバーを見て、ぼくはまたまた目をむいた。

「こ、琴吹さん!? それに、竹田さんまで!?」

「なによ? あたしは、遠子先輩に頼まれたから、出るだけだからねっ。井上は関係ないんだからっ。てゆーか、井上と共演なんて冗談じゃないんだからね」

 ガンをつけてくる琴吹さんの隣で、ふわふわの髪をした小柄な女の子が、にこにこ笑っている。

「えへっ、おもしろそうなので、おっけーしちゃいました〜」

 竹田さんは図書委員をしている一年生だ。以前、彼女のラブレターの代筆をしたことがある。そのときあれこれあって、ときどき文芸部へ遊びに来るようになったのだ。

 竹田さんは子犬みたいに人なつこい目でぼくを見上げ、可愛らしく首を傾げた。

「あれれ? 心葉先輩、お顔が引きつってますよ。千愛と共演するの嫌なんですか?」

「いや、そういうわけじゃ」

 あたふたするぼくを、琴吹さんが睨んでいる。いつもに増して視線がキツイ。そういえば琴吹さんも図書委員だから、二人は知り合いのはずだ。前に琴吹さんは竹田さんのことを、『いかにもロリコン受けしそうな子よね』と、くそみそに言ってたっけ。

 大丈夫なのか? このメンバーで?

 冷や汗をかくぼくの隣に、芥川くんが真面目な顔で立っている。それを見て、竹田さんは声を張り上げた。

「うわぁ、芥川先輩も出演されるんですかぁ。すっごぉぉぉぉい。あたし、友達にうらやましがられちゃいますよぉ。一年生にも、先輩のファンは多いんですよ。あっ、あたし、竹田千愛っていいます。よく弓道部に、見学に行ってました」

 芥川くんは優しい先輩の表情で、うなずいた。

「ああ、知ってる。前に、井上と二人で来たこともあったな」

「はい。仲良しですから」

 ぼくの腕に自分の腕をからめ、えへっと笑ってみせる。そっぽを向いていた琴吹さんが、凄い勢いでこっちを振り返る。

「心葉先輩ともども、よろしくお願いしますね。あっ、ななせ先輩も仲良くしてくださいっ。ななせ先輩って呼んでもいいですか?」

「イヤ」

 眉をぴくぴく震わせて、琴吹さんが即答する。

 対する竹田さんは、笑顔全開だ。

「はいっ、ななせ先輩って、呼んじゃいまーす」

「イヤって言ったのよ! あたしは!」

「やぁん、ななせ先〜輩、こわーい」

 ひしっとしがみついてくる竹田さんを見て、琴吹さんがキレそうな顔になる。

「〜〜〜〜っ、てゆーか! 井上、あんた、いつまで腕組んでんのっ!」

「わわっ、ごめん」

 急に矛先を向けられて、ぼくは慌てて竹田さんの腕をほどいた。竹田さんが「あぁん」と残念そうな声を出す。

「と、とにかく、小学生のお遊戯会じゃないんだから、べたべたすんのやめてよねっ」

 琴吹さんは赤い顔でそう言い、ツンと横を向いてしまった。

 そんなぼくらのやりとりを、芥川くんは大人びた態度で見守っている。

 そして、元凶の遠子先輩はと言えば……。

「まぁ、みんな和気藹々ね。このメンバーを選出したわたしの目に、狂いはなかったわ」

 すっかり悦に入って、うなずいている。ぼくは家に帰りたくなってしまった。

 テーブルの周りに無理矢理椅子を五つ押し込み、各自が腰かけて、やっと劇の話になった。遠子先輩が、ハードカバーの古い本を誇らしげにかかげる。

「----というわけで、部内で慎重に協議を重ねた結果、演目は武者小路実篤の『友情』に決まりました!」

「わぁ、すごーい。なんか格調高そうです〜」竹田さんがパチパチと拍手をする。

 協議を重ねた結果って……逆立ちに失敗して、無難に武者小路の代表作に落ち着いただけじゃないか。

 遠子先輩はかまわず、続けた。

「『友情』は大正八年に、大阪毎日新聞の連載小説として書かれた作品よ。みんなは、読んだことがあるかしら?」

「いいえ」「ありませーん」「あたしも」

 芥川くん、竹田さん、琴吹さんが答える。

「じゃあ、簡単にあらすじを説明するわね。登場人物は、脚本家の野島。野島の親友で小説家の大宮。野島が恋をする女学生の杉子。杉子の友達で大宮の従姉妹の武子。あとは杉子の兄で野島の友人の仲田。野島の恋敵の早川----こんなところかしら。

 物語は、主人公の野島が、杉子を見初めたところからはじまるわ。杉子こそ、自分の妻になる女性だと確信した野島は、彼女に会うために仲田の家へ通いつめ、一途に恋するのよ。

 そんな気持ちを、野島は親友の大宮にだけ打ち明けるの。大宮は男らしく誠実な男性で、野島の話に真剣に耳を傾け、野島の恋を応援してくれるわ。

 けれど、杉子が好きになったのは、野島ではなく大宮だったのよ。

 大宮は恋と友情の間で苦しみ、友情をつらぬくために海外へ留学するのだけれど、そんな彼に、杉子は何通も手紙を書くの。そうして、ついに杉子への想いを抑えされなくなった大宮は、彼女を自分の元へ呼び寄せるのよ」

 竹田さんが目を丸くする。

「ふぇ〜、野島サンは失恋したうえに、親友もなくしちゃうんですかぁ? 可哀想〜」

「そうね。でも、ラストは哀しいけれど、とても力強くて感動的なのよ。それに野島が杉子に恋をして一喜一憂する様子は、胸がいっぱいになっちゃうし。ほらほら、このシーンなんか素敵よ? 野島が砂の上に杉子の名前を書いて、波が十度押し寄せるまで、字が消えなかったら想いは叶うって願かけをするの。ロマンチックよね〜」

 遠子先輩がページを開き、説明する。

 竹田さんと琴吹さんが両脇からのぞきこむ。

 それから、三人で顔がくっつきそうな距離で、ページをめくりあい、「ねっ、ここが最高なの」とか、「ええ、でもこのシーンは」とか言いながら、拾い読みをはじめた。

 最初は遠子先輩の独壇場で、「ねっ? ね? 野島クン可愛いでしょう? 人を好きになって、世界がまったく変わってしまうこの気持ち、わかるでしょう?」などと熱弁を振るっていたのが、途中から琴吹さんと竹田さんが、反論しはじめた。

「えー、野島、はしゃぎすぎですよ、遠子先輩」

「あたしもぉ、ここまで熱烈に想われちゃったら、引くかもですぅ。野島サンって乙女チックな女学生みたいですよね」

「そ、そうかしら? 恋をしたら、このくらい普通じゃない?」

「けど杉子サンだって、大宮サマへのお手紙に『野島さまの妻には死んでもならないつもりでおります』『野島さまのわきには、一時間以上は居たくないのです』とか書いちやってますよぉ」

「わかるー。野島ウザいもん。杉子のこと勝手に妻扱いして、他の男と話してるだけで、『あんな女は豚にやっちまえ、僕に愛される価値のない奴だ』とか怒ってるし。こいつ何様?」

「ですよね〜。杉子サンに、自分だけに頼ってほしいとか、自分は帝王で杉子は女王になるとか思いきりドリーム入ってますしぃ。これじゃ、杉子サン、逃げますよ」

「そうそう」

 急に意気投合する二人に、遠子先輩が必死に、野島の弁護を続ける。

「ええっ、そこが野島クンの萌えどころなんじゃない! 恋をすれば、人は頭の中でいろんなストーリーを組み立てて、ドキドキわくわくしちゃうし、同時に自信が持てずに落ち込んだり苛々したり、子どもみたいな八つ当たりをしちゃったりもするわ。

 大好きな人が自分を好きになってくれたら、きっと今よりずっと素晴らしい人間になれるし、世界を支配することだってできる。そんな、心が天に舞い上がってゆくような幸せな気持ちと、我に返ったときの泣きたくなるような不安。その間で、真剣に右往左往している野島クンって、とってもまっすぐで、可愛くて、素敵だと思うけど」

 笑顔の遠子先輩に、琴吹さんがきっぱり言う。

「いくら遠子先輩のご意見でも、それは同意できません。こーゆー勘違い男は、甘やかしたら、つけあがるに決まってます」

「はーい、千愛も、そー思いまーす。それに比べて大宮サマはクールで素敵ですぅ。卓球で杉子サンを負かすとこなんか、カッコよすぎて萌え萌えですよ〜」

「だね。大宮はいいやつだね。外国へ行くときの別れの言葉も泣かせるね」

 琴吹さんがしたり顔でうなずく。

「そんなぁ、二人とも、野島クンの魅力にも、気づいてあげて〜〜〜〜」

 小説の登場人物のことで、よくこれだけ盛り上がれるものだと、ぼくは感心してしまった。女の子の会話についてゆけず、芥川くんと二人でぼーっと眺めていたら、竹田さんが話を振ってきた。

「心葉先輩と芥川先輩は、どう思われますか?」

「えっ? あの……確かに野島は、空気読めてないかもしれないけど、大宮もいきなり同人誌に杉子との往復|書簡を載せて、それを野島に読めっていうのはどうかな……と」

 もごもごとつぶやいたとき、芥川くんが急に硬い声で言った。

「オレは大宮は、杉子を受け入れるべきではなかったと思う。たとえどんな理由があっても、自分を信頼している友人を裏切るような真似は、誠意ある人間のすべきことではない」

 芥川くんの表情も、声と同じくらい厳しく張りつめていた。宙を見据える瞳が、強く光っている。

 思いきりのマジレスに、竹田さんと琴吹さんがぽかんとする。

 ぼくも焦ってしまった。どうしたんだ、芥川くん!

 空気が白けかけたとき、遠子先輩がテーブルに手をついて、身を乗り出してきた。

「あらっ、誠意ある立派な男性が葛藤するからこそ、文学が生まれ、ときめきが生まれるのよ。大宮クンが女たらしのプレイボーイだったら、杉子との往復書簡に、こんなにヤキモキさせられたりしないわ。わたし、このシーンが大好きなの。お豆腐もう一丁! いえ、もう三丁! 四丁! ううん、ありったけ持ってきて! 生姜山盛りで! みたいな感じ?」

 ぼくは額に手をあてた。

「その譬え、難解すぎです、遠子先輩」

 芥川くんはあっけにとられているし、琴吹さんと竹田さんも困惑している。

 遠子先輩は右手の人さし指を立て、それを左右に振りながら嬉しげに言った。

「うふっ、簡単に言えば、おなかいっぱーい、けどまだ食べるーみたいな?」

「わけわかりません。もういいですから、話を進めましょう。時間もないですし」

「やだ、本当!」壁の時計を振り仰いで、目を見張る。「じゃあ、さくさくと配役を決めちゃいましょう。やっぱり野島が心葉くんで、大宮が芥川くんかしら?」

「嫌です。主役なんてできません」

 ぼくは即座に言った。劇に出るだけでも気が重いのに、とてもそこまでつきあえない。

「えー、千愛も、妥当なキャストだと思いますよ」

「そうだよ。男は芥川と井上しかいないんだから、ぐだぐだ言ってないで、やりなよ」

「オレが野島をやろうか?」芥川くんが申し出る。

「それはダメですよぉ。大宮サマは、長身の二枚目のイメージなんですから。野島サンのほうがカッコよかったら、杉子サンが大宮サマを好きになる説得力がありません」

 竹田さんがもっともなことを言う。けどそれって、ぼくに対して失礼じゃないか?

 すると、遠子先輩が朗らかな声で言った。

「よし、わかったわ! 文芸部の部長として、ここはわたしが、野島を引き受けるわ」

「ええっ、遠子先輩が!?」

「うわぁ、男装の麗人ですかぁ? 宝塚ですかぁ?」

 琴吹さんと竹田さんが目を丸くする。

 芥川くんも驚いているようだし、ぼくも惚けてしまった。そりゃ確かにその貧相な胸なら、サラシなしでも男装可能だろうけど……。

「任せておいて、�文学少女�のわたしが、最高の野島を演じてみせるわ。だから、芥川くんは大宮をやってね?」

「はい。オレでよければ」

 芥川くんがうなずく。

「よかったぁ。よろしくねっ、芥川くん! わたし、芥川くんには、どうしても劇に出て欲しかったから、芥川くんが来てくれたとき、やったぁって思ったのよ」

 とろけそうな笑顔で、そんなことまで言う。やけに力がこもっているけど、そんなに文化祭で女性客を確保したかったのだろうか。芥川くんは困っているような、恥ずかしそうな、曖昧な笑みを浮かべている。

「えっと、次はヒロインの杉子ね」

「はいはーい、ななせ先輩がやるのがいいと思います」

「やっ、竹田! あんたなに言ってんの!」

 琴吹さんが、うろたえる。

「だって、杉子サンは、野島サンが一目惚れしちゃうような美少女ですから、ななせ先輩にぴったりだと思うんですよぉ」

「で、でも、その……あたし、演技なんて……」

「千愛ちゃんの言う通りね。ななせちゃんなら、きっと素敵な杉子になるわ。やってくれるわね? ななせちゃん?」

 遠子先輩に肩に手を置かれ、琴吹さんが真っ赤な顔で声をつまらせる。ぼくのほうを、二、三度ちらちらと見てから、恥ずかしそうな小さな声で、

「……は、はい」

 とつぶやいた。

「琴吹さん、頑張ってね」

 激励のつもりで声をかけると、もじもじしていたのが急にキッと顔を振り上げ、「役を引き受けたのは、井上とは関係ないからねっ」と、念を押された。

「う、うん」

 その後、竹田さんが杉子の友人で大宮の従姉妹の武子役に決まり、ぼくは野島の恋敵の早川をやることになった。それなら大して出番もないだろうとホッとしていたら、遠子先輩にシナリオを書くよう厳命されたのだった。

「来週の月曜日までにお願いね。期待してるわ、心葉くん」

 

 ----月曜ってあと五日しかないじゃないか。本当に後輩使いが荒いんだから。

 解散後。

 図書室で『友情』を借りて表に出ると、校舎の壁も、校庭の桜の木も、まばゆい夕日に染まっていた。波のように満ちてくる朱色と金色の光の中、寒々とした秋の空気を頬に感じながら校門を通りすぎる。

 すると、少し先の方に芥川くんの姿が見えた。

 赤い郵便ポストの横に自転車を止め、背筋をぴんと伸ばして立っており、手紙を投函しようとしているようだった。あざやかな夕焼けに染まった横顔が、どこか張りつめて、憂鬱な影を帯びているように見えて、近づきかけた足が止まる。

「……」

 芥川くんは長方形の白い封筒を、眉根を少し寄せ、切なそうな目で見おろしていた。

 しばらくそうしていたあと、手紙をそっとポストに投函し、自転車にまたがった。

「芥川くん」

 走っていって声をかけると、ほんの少し恥じらいを含んだ顔で振り返った。

「今、帰りだったんだね?」

「ああ。部活の方へ顔を出してきた」

 芥川くんが自転車から降り、そのまま夕暮れの道路を二人で並んで歩き出す。

 ぼくは、気になっていたことを尋ねてみた。

「芥川くん、本当に劇に出ることにしてよかったの? 遠子先輩のことなら気にすることなかったんだよ?」

 端整な横顔を向けたまま、胸に染みこんでくるような静かな声で芥川くんがつぶやく。

「すまんな。心配をかけて。だが、天野先輩に劇に誘われたとき、普段の自分と違うことをしてみたくなったんだ。いろいろと煮詰まっていたから、気が紛れて、かえってありがたい」

「それ、成績のこと?」

 息が少し、苦しくなる。

 こんなこと、ぼくが訊いていいんだろうか? 踏み込みすぎないように、微妙なバランスを崩さないように……薄い氷を踏むように不安定な、危うい気持ちで、慎重に言葉を選ぶ。

「もしかしたら他にも悩んでることがあるんじゃない? たとえば、恋愛……とか」

 口にしたとたん、胸の鼓動が一層高まったし、後悔した。

 もし、不快感を示されたら……。けど、芥川くんは表情を変えなかった。

「何故、そう思ったんだ」

「きみ、モテるから。彼女とかいるの?」

 更科さんの顔が頭に浮かぶ。しっとりした長い髪。清楚で大人しげな面差し。細い声。

 ----お願い。他に好きな子ができたのか、一詩くんに訊いてほしいの。

 芥川くんは二股をかけられるような人じゃないと思う。けど。

「いや」

 答える声が、少し硬い。

「そっか、意外だな」

「そんなことはない」

 更科さんのこと知られたくないのかな? それは照れくさいから? それとも他に話せない理由があるのだろうか?

「井上こそ、どうなんだ?」

「ぼく? いないよ。きみと違って女の子に呼び出されたこともないし」

「天野先輩とは仲がいいようだが。恋人じゃないのか?」

 ぼくはコケそうになった。

「やめてよ。それだけは絶対に有り得ないよ。ぼくは遠子先輩のおやつ係----いや、パシリだよ。いつもこき使われているんだ。後輩|虐待だよ。あの人は横暴なんだ」

 そこだけは、はっきりと主張する。

「そうか……なら」なにか口にしかけて、「いや、いい」とつぶやく。

 飲み込まれた言葉が気になった。ぼくに、なにを訊こうとしていたのだろう。

「じゃあさ、芥川くんは、どんな子がタイプ?」

 今度は少し遠回しに尋ねてみる。芥川くんは考え込むようにうつむいた。

「……タイプというのは、特にないように思う。ただ」

 一瞬、口を閉じ、切なそうな眼差しになる。

「……相手の意外な一面を見せられると、気になってしまう。普段は強気で意地っ張りなやつが、一人で泣いている姿を見てしまったときとか」

 それは単なる譬えにしては実感がこもっていた。決して泣かないはずの勝ち気な女の子が見せた涙に、芥川くんは心を揺らされた経験があるのだろうか……。

 ふと、夏休みに入る前、病院のベッドで琴吹さんが見せたか弱げな顔が頭に浮かんだ。

 いつもツンとしている琴吹さんが、目に涙をにじませてうつむいていたとき、ぼくは動揺した。あのときの琴吹さんを思い出すと、少し落ち着かない気持ちになる。

 琴吹さんを好きになってしまったとか、そんなことはないのだろうけど……。

 あれ? でも? 芥川くんの彼女の更科さんは、強気で意地っ張りというタイプではないよね? それとも、大人しそうに見えるけれど、実は遠子先輩みたいに暴れん坊なのかな? 遠子先輩も外見だけなら、しとやかな文学少女だし。

「井上は? どんな人がタイプなんだ?」

 ふいに問われて、ぼくは答えにつまってしまった。

 陽炎のように頭に浮かぶ懐かしい、愛しい、女の子のことを打ち明けるわけにはいかなくて、胸が裂けそうになって、

「わからないや……」

 無理して笑顔を作り、つぶやいた。

 空気はいつの間にか暗く冷たくなり、外灯に照らされたアスファルトに黒い影が浮かんでいる。あとは当たり障りのない話をして、ぼくらは別れた。

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

[#ここから太字]

 きみへの手紙は、何通目になるだろう。

 先日出した手紙では、感情的になって、きついことを書いてしまったと後悔している。

 きみが今現在も、長く辛い戦いの最中にあるということをオレは失念していた。きみは、世界の何もかもが自分に敵意を持ち、槍を冷たく閃かせて向かってくると感じているのだろう。幾度も裏切られ、傷つけられ、最後の望みすら、最も近しい人間によって断ち切られてしまったので、この世に味方など一人もいないと固く信じているかもしれない。

 きみの強靭な意志と、火のような勝ち気さが、世界への憎しみと拒絶から来るものであることは、もうわかっている。今のきみにとっては、憎しみこそが自らを立たせる為に必要な杖であることも。

 それでも、きみに憎悪に満ちた眼差しを向けられるのはたまらない。オレはきみの手助けをしたいと、胸が潰れそうなほどに願っている。きみに会うことを避けているオレが、そんなことを言っても信じてもらえないかもしれない。けれど、オレは本当にきみの味方になりたいのだ。

 もしきみが、あんな不誠実な行為をオレに望むのでなければ、オレは喜んで君のもとへ駆けつけるつもりだ。

 だからどうか、冷静になってほしい。ほんの少しでいいから、心を開いてほしい。

 きみが泣いているのではないか気がかりで眠れないと言ったら、きみは怒ってオレの頬を打つだろうか。

[#ここまで太字]

[#改ページ]


最后编辑于:2015-05-06 19:40

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