�文学少女�と繋がれた愚者《フール》:エピローグ ともだち

发表于:2015-05-05 19:09 [只看楼主] [划词开启]
时间:2015-05-05 19:08~2015-05-31 02:30
地点: 南京
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知道了

エピローグ ともだち

 

 劇が終わったあと、控え室代わりの教室へ訪ねてきた更科さんは、真っ赤に充血した目で、けれどどこか吹っ切れた、すっきりした表情で言った。

「たくさん迷惑をかけてごめんなさい。もう、芥川くんには会わない……。わたし、一人になるのが怖かったの。わたしの両親は喧嘩ばかりしていて、子どもの頃からお誕生日はいつも一人で過ごしていたから。一緒に誕生日を祝ってくれる人がいてほしかったの。けど、今は、一人でも平気。あなたたちの劇を見て、そう思えたのよ」

「オレのほうこそ、すまなかった」

 芥川くんが更科さんに頭を下げる。

 更科さんも……芥川くんも……やっぱり、少しだけ寂しそうだった。

「あのね、二人に見せたいものがあるの」

 遠子先輩が明るい声で言い、どこかの中学校の文集を差し出した。

「本当は、劇がはじまる前に芥川くんに読んでほしかったんだけど、ななせちゃんが倒れて、ばたばたしていて、渡しそびれちゃった。栞のページを読んでみて」

 芥川くんが怪訝そうな顔で受け取り、すみれ色の栞が挟んであるページを開く。

 ぼくらも、横からのぞき見る。

 すると、手書きのタイトルと名前が、目に飛び込んできた。

 

 ----『みかん狩り』 二年一組 鹿又笑

 

「これ、もしかして、鹿又さんの作文ですか?」

 遠子先輩が微笑む。

 芥川くんと更科さんが、むさぼるように読みはじめる。

 

『日曜日にお父さんとお母さんと一緒に、近所の果樹園に、みかんを狩りに行きました』

 

 そんな一文からはじまる作文には、蜜柑狩りを楽しむ一家の、ほのぼのとした光景が綴られていた。そしてこんなことも、書いてあった。

 

『お父さんたちとみかんを食べながら、芥川龍之介の�蜜柑�という短編を思い出しました。昔、友達と一緒に読んだこの話を、転校したばかりで寂しかったとき、何度も読み返して励まされました。私の一番好きな、大切な物語です』

 

 作文を読む芥川くんと更科さんの顔に、切なさの混じった笑みが浮かぶ。

 遠子先輩が、優しい声でささやいた。

「わたしが舞台で語った未来には、�本当のこと�も、少しだけ混じっていたのよ」

 教科書を切り裂くことでしか、両親への鬱屈をはらすことができなかった鹿又さんは、新しい土地で、両親とも和解し、穏やかに過ごしていたのだ。

 鹿又さんはもう、不幸ではなかったし、誰も恨んでいなかった。過ぎ去った日々を、あたたかな記憶として、胸に抱いていた。

 それを知ったとき、きっと芥川くんも、更科さんも、朗らかで安らかな気持ちになれたのだろう。

 そう、夕暮れの空に舞う蜜柑を見るように----。

 二人ともそういう顔をしていた。

 更科さんが、つぶやく。

「わたし、芥川龍之介の『蜜柑』が大嫌いだったの。けれど、また読んでみるわ。きっと今なら、昔と違う気持ちで、読み返せるような気がするから……」

 立ち去ろうとする更科さんを、芥川くんが呼び止める。

「小西[#「小西」に傍点]、あのうさぎのマスコットは、きみへの誕生日プレゼントのつもりで、鹿又に選んでもらったんだ。それも�本当�だった。きみの家の前を通りかかったとき、庭で一人で泣いているきみを見かけたときから、オレは小西のことが好きだった」

�更科�ではなく�小西�と、芥川くんは言った。

 病院で、更科さんを好きかと尋ねたとき、芥川くんは切ない眼差しで、『好きだったこともある』と答えた。

 あれは、偽りのない真実だったのだろう。ただ罪悪感からだけではなく、子どもの頃、好きだった人だからこそ、芥川くんは更科さんを振り切れなかったのだろう。

 更科さんは目をほんの少しうるませて、微笑んだ。

「ありがとう。さよなら一詩くん」

 

 更科さんが出て行ってすぐ、入れ替わりで麻貴先輩がやってきた。

「お疲れ様! 舞台、よかったわよ、遠子! たっぷり堪能させてもらったから、このあたしに、メイドの格好でカレー屋のウェイトレスをさせたことは、許してあげる」

「ウェイトレス!? したんですか!? メイドの格好で?」

 ぎょっとして叫ぶと、麻貴先輩はふてぶてしく答えた。

「あたしが遠子の頼みを断ったことがあったかしら? そうそう、遠子、おたくの下宿先のドラ息子が、カレー屋に来てたわよ」

「流人が?」

「ええ。ぞろぞろ女の子を引き連れて。相変わらずね、あのボーヤ。オーダーをとりに行ってやったら、『世にも恐ろしいものを見ちまったぜ』なんて、目を丸くして、のけぞるから、椅子の脚を蹴飛ばして、転ばしといたわ」

 そう言って、嫣然と微笑む。

 この人が、メイドの格好して『いらっしゃいませ』なんて言ったのかと思うと、流人くんの発言に大いに共感できた。そんなことを口にしたら、ぼくも蹴り飛ばされるかもしれないけど。

「ありがとう、麻貴。劇のことも、他のことも……。麻貴がいてくれて本当に助かったわ」

 普段は、徹底的に麻貴先輩を避けている遠子先輩が、珍しく素直にお礼を言い、頭を下げる。

 やっぱり文集は、麻貴先輩がコネを駆使して手に入れたものを、遠子先輩に渡したらしい。

 けれど、�代償�はなんだったのだろう?

 麻貴先輩が、満足そうに目を光らせる。

「やっとあたしの愛が伝わったのかしら? 今、頼んだら、脱いでくれる?」

「脱ぎません!」

 遠子先輩が真っ赤な顔で叫ぶと、ニヤニヤした。

「残念。ま、いいわ。�代償�は、しっかりもらったから」

 遠子先輩が絶句する。

 麻貴先輩は、ぼくのほうへ顔を寄せ、ささやいた。

「このあとメインホールで、オーケストラ部のコンサートがあるから、心葉くんも、ぜひ来てちょうだい。楽しいものが見られるわよ」

「ああぁっ、なんてことを言うの!」

 着物の袖を振り回してうろたえる遠子先輩に、親愛に満ちたウインクを投げ、麻貴先輩は出て行った。

「ふぇ? 楽しいもの、ってなんでしょう?」

 後ろでやりとりを聞いていた竹田さんが、首を傾げる。

「い、いいのよ、千愛ちゃん。気にしなくて! 心葉くんも、オケ部のコンサートなんて絶対に行っちゃダメよっ」

 

 そのあと、大急ぎで制服に着替えると、クラスに戻らなければならないという竹田さんや芥川くんと別れ、コンサート会場の音楽ホールへ走った。

 ぼくのすぐ後ろを、制服に、不揃いな三つ編みの遠子先輩が、追いかけてくる。

「ね、本当に行くの? どうしても行くの? クラシックなんて眠たくなっちゃうわよ。それより、わたしと、あんみつを食べに行かない?」

「遠子先輩は、食べられないでしょう」

「それじゃあ部室で、尊敬する先輩のために、あんみつ味のラブストーリーを書いてくれるのでもいいわ」

「文化祭の最中まで、先輩のおやつの面倒を見るのは嫌です」

「どうして、そんなにオケ部のコンサートに行きたいの?」

「遠子先輩こそ、どうしてそんなに息を切らして、後をついてくるんですか」

「だってだって----」

 遠子先輩が走りながら、両手で握り拳を作って、顔と肘を左右に振り、いやいやをする。そんな風に言い合っているうちに、中庭のホールに辿り着いてしまった。

「ダメぇ、入っちゃダメぇ〜〜〜〜」

 遠子先輩がぼくの制服の袖口をつかんで、必死に引き止めようとするのを、チケットを購入して、そのまま中へ入る。

 するとロビーに、見上げるほど大きな看板が飾ってあった。

 それは、遠子先輩の写真を拡大したものだった。

 タンクトップにミニスカートの、チアガール姿の遠子先輩が、手にポンポンを持って、笑顔で飛び跳ねている。髪はツインテールにし、麻貴先輩の趣味なのか、遠子先輩の希望なのか、大きな眼鏡をかけている。

 薄いタンクトップに覆われた胸は、見事にぺたんこで、裾から白い素肌が、ちらりとのぞいている。おへそが見えそうで見えないという際どいアングルで、一方、めくれあがったスカートも、ギリギリ下着が見えるか見えないかといった位置でとどまっていた。真っ白な足が、膝をそろえて折った状態で、宙に浮いている。

 看板の横に、�聖条学園オーケストラ部がきみに贈る、未来へのエール�というコピーがついていた。

 なるほど、これが今回の�代償�か。

 そういえば、前に、房が不揃いのヘンな三つ編みの遠子先輩が、忙しそうに走ってゆくのを見かけたことがあったっけ。あれは撮影のあとだったのだろうか。

 納得して見上げるぼくの横で、遠子先輩が首筋から耳まで真っ赤にして呻く。

「ち、違うの……これは、わたしじゃないの。別のクラスの誰かさんなの。お願い、見ないで……っ。見ないで、心葉くん」

 ぼくは、くすりと笑った。

「よかったですね。同じくらい胸がぺったんこな人がいて」

 とたんに、頭をぽかりとやられた。

「ひどい! なんて思いやりのない後輩なのっ。ハンカチ貸してあげるんじゃなかった」

「あれは、ぼくのハンカチです。ほら、コンサートはじまっちゃいますよ。それに目立ってますよ」

 ロビーにいる人たちが、「ねぇ、あれ、看板の……」とささやいているのに気づいて、遠子先輩は、ぼくの背中に頭を押しつけて、うつむいてしまった。

「は、早く客席へ行きましょう、心葉くん」

 これはこれで、目立ってるんだけどなぁ……。

 服を両手でひっしとつかまれ、顔を埋められて、背中に感じるぬくもりを、ほんの少しくすぐったく思いながら、仕方なく歩き出す。

「うぅぅ、もう、絶対、麻貴に頼み事はしないんだから〜〜〜〜」

 遠子先輩は、席についてからもずっと唸っていた。

「そういえば、熊狩りをしている彼氏は元気ですか」

 ふと思い出して尋ねると、目を丸くし真っ赤な顔になり、のけぞった。

「な、なななななんのこと?」

「北海道は冬が早いから、そろそろ白いマフラーが必要でしょう」

「あぅ」

「チャペルで式を挙げるときは、招待状を送ってください。往復航空券つきで」

 遠子先輩は頬を染めたままおろおろし、気弱な目をしたり、睨んだりしてきた。

「こっ、心葉くんって、本当に根性が悪いわ」

 やがて、幕が上がり、聖条学園が誇るオーケストラ部のコンサートがはじまった。

 燕尾服に身を包みタクトを振る麻貴先輩は、実に生き生きしていて、楽しそうだった。

 

 感動的なコンサートが終わって外へ出ると、校庭はやわらかな夕日に染まっていた。

『閉会式を行いますので、生徒の方は体育館に集合してください』

 橙色の空に、実行委員のアンナウンスが流れてゆく。

 遠子先輩と別れて、一度教室に戻ると、芥川くんが一人で窓際に立ち、外の景色を見つめていた。

「芥川くん」

「井上……」

 

 芥川くんが顔をこちらへ向ける。ぼくは、彼の側まで歩いていった。

「閉会式、行かないの?」

「文化祭が終わってしまうのが、妙に寂しくてな。ここで、たそがれてた」

「きみが、そんなこと言うなんて思わなかった」

 開いた窓からひんやりした風が吹いてくる。

 教室の中は、夕日と同じ色に染まっている。

「けど、ぼくもきみと同じかな。なんだか胸に隙間ができたみたいだ。嫌な感じではないんだけれど……朝からハラハラしどおしだったけど、楽しかったよ」

 芥川くんが微笑む。

「そうだな」

 心を許し合っているような空気が心地よくて、ずっと浸っていたくなる。

「ぼくね……高校生になってから、こんな風に学校行事に一生懸命になったことって、なかったんだ。そういうの面倒くさいから、適当にやり過ごせばいいやって思ってた。けど……きみと舞台に立ててよかった」

「オレも、井上と似たようなものだ。文化祭も、球技大会も、学校生活自体がオレにとっては果たすべき義務に過ぎなかった。こんな風に、仲間と一緒になにかをすることを、楽しいと感じたことなんてなかった。こんな気持ちになれたのは、天野先輩と井上のおかげだ」

「きみから台詞を引っ張り出したのは遠子先輩だよ。ぼくは、なにもしてない」

「いや、井上が一緒に立ち向かおうと言ってくれなかったら、オレは舞台へ向かう前に逃げ出していた」

「そうかな。きっときみは逃げなかったよ。……けど、きみの手助けができたのなら嬉しい」

 芥川くんは清々しい顔で笑っている。それは、痛みを乗り越えた人間にしかできない笑みだった。彼は自分の手で鎖を断ち切り、未来へ向かって歩み出したのだ。

 そしてぼくも----。

「芥川くん、ぼくはきみと、友達になりたい」

 芥川くんが、かすかに目を見開き、驚きの表情を浮かべる。

「ぼくは、他人と深く関わることを避けていたんだ。昔、辛いことがあって、もう人と関わることで傷つくのは嫌だと思っていた。きっとぼくときみは似ていたんだ。けれど、今、ぼくはきみと関わりたいと思う。友達になってくれるかな、芥川くん」

 見開かれていた目が、そっと伏せられ、困っているような表情になる。

「……オレは、まだ井上に話せないことがある。いつか、井上を傷つけるかもしれない」

 彼のその告白は、ぼくを驚かせた。

 一体、芥川くんは、どんな秘密を胸に秘めているのだろう? お母さんのこと? それとも……。

 疑問が次々|湧いたけど、ぼくは笑ってみせた。

「かまわないよ。きみが話したくないなら、ずっと秘密のままでもいいさ」

 芥川くんが顔をあげる。

 男らしい端整な顔に、再び驚きが広がってゆく。

 ぼくは、右手を差し出した。

「友達になろう。いつか喧嘩しても、別れても、今、きみと友達でいたい」

 芥川くんが目を見開いたまま、ぼくを見つめる。

 その視線を、ぼくは素直に受け止める。

 傷ついても、傷つけても、新しく生まれるものがある。育ってゆく絆がある。

 それを信じて----。

 芥川くんが、優しく目を細めた。

 そうして、大きな手を差し出し、ぼくの手を強く握りしめる。

 熱く火照った彼の右手を、ぼくもしっかりと握り返す。

 確認の言葉は必要ない。

 もう、ぼくらは、友達だった。

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

[#ここから太字]

 きみに手紙を出すのは、久しぶりだ。

 この二ヶ月の間、きみから何通も手紙を受け取りながら、返事をすることができなかったことを、許して欲しい。

 きみからの手紙には、再三、会いに来るよう書いてあり、きみが苛立っていることは十分承知していたが、会いに行けない事情があった。

 正直に言えば、オレはきみと向かい合うのが怖がったのだ。

 きみに出会ったのは、去年の冬。一年生の三学期だった。

 オレは、母の見舞いに来ており、同じ病院に入院していたきみと知り合ったのだ。

 きみは、廊下でたった一人で、歩く練習をしていた。

 何度も躓いて転んでは、また立ち上がり、よろめきながら歩き出し、また転び、また歩き出す。思い通りにならない体に、きみはひどく焦れているようで、何度も悔しそうに独り言を言い、少し泣いているようだった。

 そのとき、ほんのわずかに見えた泣き顔が気になって、それからオレは毎日のように、曲がり角に身を潜め、きみが歩く姿を見つめながら、なかなか声をかけることができずにいた。

 ところがある日、いつものように、廊下で転んでしまったきみは、床に膝をついて這い蹲ったまま、ひどく苛立たしそうに言ったのだった。

「あんた、いつもそこで、こそこそ見てるのね。あたしは見せ物じゃないわよ」

 あのとき、オレがどんなに驚いたか、わかるだろうか。

 そうして、顔をあげて、オレを睨んだきみの瞳が、激しい怒りと憎しみに燃えているのを見て、胸を鋭い刃物で突かれるような思いがしたことも----。あのとき、オレが完全に、きみに捕らわれてしまったということも----。

 謝罪するオレに、きみは冷たい言葉を浴びせ、オレを遠ざけようとした。

 それからあとも、オレがきみに会いにゆき、きみに話しかけるたび、きみは不愉快そうにオレを遠ざけようとした。

 きみの手助けをしようとすると、火のように怒り、自分はなんでも一人でできるし、オレなんかに哀れまれたくないし、手を貸してもらいたくもないと主張した。

 きみが怒るのを承知で告白する。

 オレは、はじめ、きみに、昔オレが傷つけた少女を重ねていたのだ。

 その少女は、オレの小学校のときの同級生で、小西|繭里という名だった。きみにもいつか、この話をしたことがあるだろう。

 オレはきみに罵られるたび、彼女に責められているような気がしていたのだ。そうして、そのことで、少し救われていた。

 何故ならオレは、責められて当然の人間だと思っていたから。

 少し複雑な話になるが、当時、オレは高校で再会した小西とつきあっていた。

 しかし小西は、昔の小西ではなく、現在の小西を一人の異性として好きになることが、オレはどうしてもできなかった。また、それは小西に恋をしていた先輩への裏切りであるという事実も、小西への想いに、プレーキをかけていたのかもしれない。

 小西は自分に気持ちが向いていないオレを、詰ることも恨み事を言うこともせず、一緒にいられるだけでよいのだと、すがるような目で見つめてきた。オレに頼り、オレを信じていた。

 卑怯なことに、オレはそんな小西を重く感じていた。そうして、そのことでさらに、激しい罪悪感を味わっていたのだった。

 なので、昔の小西を思い起こさせるきみの顔に、オレに対する嫌悪が浮かぶたび、オレは胸が千切れ、喉を締めつけられるような痛みを感じながらも、罰を受けることで許されているような気がし、安堵していたのだ。

 そうして、きみにますます惹かれていった。

 きみははじめ、オレのことを毛虫のように嫌うだけだったが、オレが聖条学園の一年生であると知ってから、オレが来るのを待つようになった。そうして、オレに学校でのことをあれこれ尋ねるようになった。それは、きみの心の中に鋭い痛みとともに住み続けている人物について、オレから情報を得るためだった。

 彼が、きみを深く傷つけ、きみの未来を奪ったのだと、きみは憎しみに燃える目で、オレに語った。

 オレが二年生に進学し、彼とクラスメイトになったときから、オレときみとの関係は以前より密接になり、同時に、オレにとって耐え難いものに変化していったのだった。

 なお悪いことに、きみは、病院で彼に会ってしまった。

 夏休みに入る少し前、オレがきみの病室を訪ねると、きみは真っ青な顔で、彼が病院に来ていたことを話した。

 彼はクラスメイトの見舞いに来ていたようだった。きみは、彼と一緒にいた女生徒は誰なのか? 見舞いの相手も女の子のようだが、彼と親しいのか? どんな関係なのかと執拗に尋ねた。

 あのときから、きみの様子はおかしくなっていった。

 ぼんやりと窓の外を眺めているかと思ったら、急に怒り出したり、ひどく苛々したり、泣き出したり、叫び出したり、オレに打ちかかってきたり。

 ある日、オレがきみに会いに行ったら、きみはベッドで便箋を、細かく引き裂いていた。

 それは、きみが手紙を書きたいというので、きみに頼まれた店で、オレが購入してきたものだった。

 きみは、そのお気に入りの便箋で彼に手紙を出すつもりだったのだろう。

 おそらくきみの中で、なんらかの葛藤があり、きみは書きかけの手紙を破いてしまったのだろう。

 手紙を破くきみの目は、抑えられない苛立ちと憎しみに、ぎらぎらと輝き、唇はよほど激しく噛みしめたのか、血がにじんでいた。頬には、泣いた痕があった。

 そうして、あろうことか、きみはオレに、彼への復讐の手助けをするよう迫ったのだ。

 それが懇願ではなく、脅迫に近いものだったことは、きみも自覚しているだろう。

 きみは、オレを味方に引き入れるために、あらゆる手段を用いる覚悟でいたし、言うことをきいてくれないのなら手首を切って死ぬと叫んだり、オレに淫らな行為を仕掛けたり、言うとおりにならないオレを臆病者と罵ったり、ものをぶつけたりした。

 そうして、オレが病院へ行くのをやめると、毎日のように手紙を寄越すようになった。

 きみにとって、これだけの文章を書くことが、どれほど根気と労力がいることかわかりすぎるほどわかっている分、便箋にびっしりと打ち込まれたワープロの文字と、封筒に書かれた、たどたどしい手書きの宛名は、オレをますます追い込んだ。

 封を切らず放っておけばよかったのだが、絶望的なことに、オレはすでに、小西の代わりとしてのきみではなく、きみ自身に想いを寄せていた。

 きみが本当に、自らの命を絶つ行為に走るのではないか。

 そう思うと胸が潰れそうだったし、実際きみならそうしかねないという認識があったので、苦しみは増すばかりだった。

 また、ひょっとしたらきみが哀しみにくれているのではないか、一人で泣いているのではないか、オレに助けを求めているのではないかと思い、封を切らずにいられなかったのだ。

 いつかオレは、きみの願いを叶えることが、オレが過去に犯した過ちへの贖罪なのではないかとさえ思うようになっていった。

 なにも考えず、きみの意志だけを聞き入れ、きみのためだけに生きること。それができればどんなに楽になれただろう。

 実際、オレは一度、きみから来た手紙を、彼の靴箱に入れようとしたことがある。そうすれば踏ん切りがつくのではないかと思って。

 けれど、それはしてはいけないことだという理性も、確固たる巌のようにオレの中に存在しており、結局、手紙は破り捨ててしまった。

 誠実な人間であること。

 過去のあの事件以来、オレが心にそう決めて生きてきたことは、きみにも話したと思う。オレは、どんなときも誠実な人間であらねばならなかったし、他人を傷つけることは二度とあってはいけないことだった。

 なのに、きみは、オレにそれを求めたのだ。

 オレに、クラスメイトを裏切り傷つけろと。

 そんな願いは聞けない。それは誠実ではない。けれど、きみから届く手紙の内容は苛立ちと激しさを増す一方で、そんな中、オレの対応のまずさから小西がしだいにおかしくなってゆき、オレは追いつめられていった。

 どうにかして、小西を救おうと焦っても、空回りするばかりで、小西の行動は常軌を逸し、狂気の域に達しようとしていた。

 オレはきみに書いた手紙を、きみにではなく、母に宛てて出すことで、かろうじて自分を支えてきた。

 しかもそれも限界だったし、狂気に墜ちてゆく小西を救うことができず、こんな状況でもきみを想わずにいられない自分が、最低の人間に思え、頭の中が真っ暗になるほど絶望していた。

 こんなオレでは、きみに会う資格はないと思っていた。母の見舞いに行ったときも、きみの部屋を訪ねることができなかった。

 この二ヶ月間、オレも、苦しんでいたのだ。決して、きみを放り出したわけではない。勝手な言い分だが、そのことだけは、どうか察して欲しい。この二ヶ月は、少なくともオレにとっては必要な二ヶ月だったのだ。

 小西のことが解決し、過去から自由になった今、ようやくきみに手紙を出すことができる。

 結論から言う。

 オレは、彼を罠にはめたり、貶めたりすることはできない。

 何故なら、彼と友達になったからだ。きみを大切に思うように、彼を大事に思う。

 いつか、きみとのことで、彼を傷つけてしまうかもしれない。けれど、オレはオレの友に、この先も、できるかぎり誠実に接したいと思っている。彼に対して策略を張り巡らすような卑怯な真似はしたくない。

 オレはそれを、はっきりと、きみに宣言する。

 二ヶ月の間、そんな簡単なことを伝えることができなくて、オレは、きみの手紙をカッターで切り裂いたり、自分自身を切りつけたりといった愚かな行為を繰り返してきた。きみへの返事を、母に出し続けた。

 多分、今もオレは愚かなままだ。

 けれど、ある人が、オレに教えてくれた。

 人はみな、もともと愚かなのだと。

 ならばせめて、心に理想を持ち、行動し続ける愚か者であれと。

 なので、オレは、愚かである自分を認め、その上できみや彼に向かって、踏み出そうと思う。

[#ここまで太字]

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

 文化祭から一週間が過ぎた。

 ぼくらの劇は好評だったようで、中庭の妖怪ポスト、否、恋愛相談ポストに、『とってもおもしろかったです。胸がキュンとしてしまいました』『武者小路実篤の本を読んでみたいと思います』などという応援メッセージが、ちらほら投げ込まれ、遠子先輩はご機嫌だった。

 ポストから持ってきたメモを、指で千切っては口に運び、

「美味しぃぃぃぃ、苦労して収穫した、もぎたての甘ぁい桃や葡萄の味がするわ〜。心とおなかに、爽やかに染みてゆく感じ〜」

 と、目尻を下げっぱなしでうかれていた。

 一方で『ナースさんのコスプレも見たいです』『次は、野島クンと大宮サマのLOVEモノでお願いします』なんて手紙も混じっていて、それもしっかり食べながら、

「ぅぅ、ヘンな味〜。栗きんとんに、マヨネーズをトッピングしたみたいな味〜。イカの薫製に、コンデンスミルクを振りかけたみたいな味〜〜〜〜」

 と、ベソをかいていた。

 

「芥川くんは、その後どう?」

 放課後、部室へ行くと、パイプ椅子に足を載せてチェーホフの『桜の園』を読んでいた遠子先輩が、尋ねてきた。

「元気にしてますよ。五十嵐先輩が、昨日部室に、『悪かった』って謝りに来てくれたって言ってました。あっ、来週、弓道の試合があるから、応援に行く約束をしてるんです。それから、映画の趣味があうこともわかって、今度、一緒に見に行こうって」

 テーブルに原稿用紙やペンケースを置きながら、あれこれ話すと、

「そう」

 瞳を優しく和ませて、すみれの花が開くように口元をほころばせる。

 ぼくは胸の奥が、少しくすぐったくなった。

 そこへ、琴吹さんが、ひょっこりやってきた。

「あのぉ……失礼します。文化祭では、その、心配をかけてすみませんでした。えっと、クッキー、また焼いてきたんです。お詫びに、食べてください」

 遠子先輩に頭を下げながら、ぼくのほうをちらっと見て、赤くなる。

「わぁ、ありがとう、ななせちゃん。じゃあ、心葉くんといただくわね。ななせちゃんも一緒にどう?」

「えっっっ、あのっ、あたし、今日は図書当番の日だから。もういかなきゃ」

「そう、残念ね」

「また今度ね、琴吹さん」

 そう笑いかけると、琴吹さんは目を丸くしてますます赤くなり、

「じゃ、じゃあ失礼しますっ」

 と言って、早足で出て行ってしまった。そんな琴吹さんを、ちょっと可愛いと思った。

 綺麗にラッピングされたクッキーの包みを胸に抱えた遠子先輩が、下からすくいあげるようにぼくを見て、いたずらっぽい目で問いかける。

「こら、心葉くん、ななせちゃんとなにかあったでしょ?」

「秘密です」

「あ〜、やっぱりあったんだ〜」

 声を張り上げ、頬をぷんぷんふくらませる。

 そのうち琴吹さんと、ちゃんと話をしたほうがいいんだろうな……。中学生のとき、ぼくらがどこで会っているのか。

「ね、心葉くん。先輩にだけ、こっそり教えて」

「プライベートな質問には、お答えできません」

「あ、やらし〜」

「なんですか、それ。なに考えてんですか」

 遠子先輩は「内緒なんてズルイ」と言ってすねていたが、クッキーの包みを見おろして、寂しそうな顔でつぶやいた。

「わたしは……ななせちゃんや、みんなに、嘘をついているのね」

 ふいに放たれたその言葉に、胸がズキッとした。

 遠子先輩がリボンをほどき、包みを広げる。花柄のナプキンの上に、星やハートの形をしたクッキーが、にぎやかに盛られ、狭い部室に、砂糖とバターの香りが漂った。

 遠子先輩にはなんの味もしない、甘いお菓子----。

 ほっそりした指で、星の形のクッキーをつまむと、遠子先輩は口の中に放り込んで、もぐもぐと咀嚼し、にっこり笑った。

「これはきっと、トラヴァースの『メリー=ポピンズ』みたいな味ね! 甘くて、さくさくしていて、トッピングのアーモンドが香ばしいの!」

 軽やかに言い放ち、クッキーを次々口に運び、リズミカルに噛み砕いては、笑顔で飲み込んでゆく。

「こっちはウェブスターの『あしながおじさん』みたいな味! レモンの香りが爽やかに舌の上に広がるの! これはバーネットの『秘密の花園』みたいな味ね! 薔薇色のジャムが、甘くて、酸っぱくて、とってもロマンチックなの。こっちの紅茶の葉っぱ入りのクッキーは『不思議の国のアリス』かしら? ちょっぴり渋みがきいているところが、最高に美味しいの!」

 クッキーの味を�想像�で語る遠子先輩は、どこまでも晴れやかで、前向きだった。

 みんなに、決して打ち明けることのできない、秘密。

�人とは違う�という暗い想いを胸の奥に秘めながら、遠子先輩は、甘いお菓子の味を想像し、幸せそうに笑う。

�文学少女�は確かにここにいて、ぼくらと同じように、笑ったり、すねたり、泣いたり、逆立ちをしようとして失敗したり、チアガールの格好で飛び跳ねたり、誰かを励ましたり、落ち込んだり、立ち直ったりしている。

 ぼくはパイプ椅子に座り、テーブルに置いた五十枚綴りの原稿用紙の表紙をめくった。

 そうして、遠子先輩にもわかる甘い味の�おやつ�を書きはじめた。

 そう、今日のお題は、�ともだち��トモダチ��友達�----。

 

[#中央揃え]◇    ◇    ◇

 

[#ここから太字]

 この手紙がきみの手に届く頃、オレはきみを訪ねよう。

 そして、手紙では書ききれなかった気持ちをきみに語り、きみの心を今も占め続ける井上心葉と友達になったことを、オレ自身の口からも、はっきりきみに伝えよう。

 

[#地付き]芥川一詩

 朝倉美羽様

[#ここまで太字]

[#改ページ]

 

 あとがき

 

 こんにちは、野村美月です。�文学少女�シリーズ、三話目です。話的には、ちょうど中間地点で、毎回めそめそ泣いている心葉も、少し成長しました。

 題材は、武者小路実篤の『友情』です。武者小路作品は主人公が熱いです! 名台詞の宝庫です! いいこと言いまくりですよ! 設定上、いつもより多めに引用させていただきましたが、劇に合わせて若干手を入れている箇所がありますので、ご了承ください。言葉遣いや漢字表記については、極力、原作に添わせていただきました。紹介しきれなかった名台詞がたくさんあるので、ぜひ『友情』や、他の作品を、お手にとってご一読くださいませ。きっと心に響く言葉に出会えることと思います。

 さて、今回はさすがに琴吹さんが気の毒で「可哀想〜」と同情してしまいました。毎度大した出番もなく、本筋にからむこともなくスルーされ続け、ある意味シリーズ中、一番|不遇な子ではないでしょうか。次の巻では、もう少しどうにかしてあげたいです。

 

 ここからは、お礼と報告です。

 イラストの竹岡美穂様、いつも素敵な絵をありがとうございます。

 二話目の口絵のカラー、素晴らしかったです! 実は、宝島社さん発行の『このライトノベルがすごい! 2007』の表紙部門年間ランキングで、シリーズ一話目の『〜死にたがりの道化』は、一位だったんですよ! おかげで総合部門とキャラ部門でも十位内にランクインすることができました。担当さんがすごく喜んでくださって、私もとっても嬉しかったです。投票してくださった皆様、本当にありがとうございました。

 このシリーズは毎回悩んでしまって、ギリギリ一杯で書いているのですが、励まされることや、嬉しいことも多いです。最終話まで気合いを入れて頑張りますので、どうかおつきあいください。それではまた。

[#地付き]二〇〇六年 十二月三日 野村美月


最后编辑于:2015-05-07 19:28

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