夏目漱石「こころ」第012回

tianmihui (永远的小一) 正式会员
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发表于:2015-07-24 08:47 [只看楼主] [划词开启]

12回

 奥さんは東京の人であった。それはかつて先生からも奥さん自身からも聞いて知っていた。奥さんは「本当いうと
あいなんですよ」といった。奥さんの父親はたしか鳥取とっとりかどこかの出であるのに、お母さんの方はまだ江戸といった時分じぶん市ヶ谷いちがやで生れた女なので、奥さんは冗談半分そういったのである。ところが先生は全く方角違いの新潟にいがた県人であった。だから奥さんがもし先生の書生時代を知っているとすれば、郷里の関係からでない事は明らかであった。しかし薄赤い顔をした奥さんはそれより以上の話をしたくないようだったので、私の方でも深くは聞かずにおいた。
 先生と知り合いになってから先生の亡くなるまでに、私はずいぶん色々の問題で先生の思想や情操に触れてみたが、結婚当時の状況については、ほとんど何ものも聞き得なかった。私は時によると、それを善意に解釈してもみた。年輩の先生の事だから、
なまめかしい回想などを若いものに聞かせるのはわざとつつしんでいるのだろうと思った。時によると、またそれを悪くも取った。先生に限らず、奥さんに限らず、二人とも私に比べると、一時代前の因襲のうちに成人したために、そういうつやっぽい問題になると、正直に自分を開放するだけの勇気がないのだろうと考えた。もっともどちらも推測に過ぎなかった。そうしてどちらの推測の裏にも、二人の結婚の奥に横たわる花やかなロマンスの存在を仮定していた。
 私の仮定ははたして誤らなかった。けれども私はただ恋の半面だけを想像に
えがき得たに過ぎなかった。先生は美しい恋愛の裏に、恐ろしい悲劇を持っていた。そうしてその悲劇のどんなに先生にとって見惨みじめなものであるかは相手の奥さんにまるで知れていなかった。奥さんは今でもそれを知らずにいる。先生はそれを奥さんに隠して死んだ。先生は奥さんの幸福を破壊する前に、まず自分の生命を破壊してしまった。
 私は今この悲劇について何事も語らない。その悲劇のためにむしろ生れ出たともいえる二人の恋愛については、
先刻さっきいった通りであった。二人とも私にはほとんど何も話してくれなかった。奥さんは慎みのために、先生はまたそれ以上の深い理由のために。
 ただ一つ私の記憶に残っている事がある。
る時花時分はなじぶんに私は先生といっしょに上野うえのへ行った。そうしてそこで美しい一対いっつい男女なんにょを見た。彼らはむつまじそうに寄り添って花の下を歩いていた。場所が場所なので、花よりもそちらを向いて眼をそばだてている人が沢山あった。
「新婚の夫婦のようだね」と先生がいった。
「仲が
さそうですね」と私が答えた。
 先生は苦笑さえしなかった。二人の男女を視線の
ほかに置くような方角へ足を向けた。それから私にこう聞いた。
「君は恋をした事がありますか」
 私はないと答えた。
「恋をしたくはありませんか」
 私は答えなかった。
「したくない事はないでしょう」
「ええ」
「君は今あの男と女を見て、
冷評ひやかしましたね。あの冷評ひやかしのうちには君が恋を求めながら相手を得られないという不快の声がまじっていましょう」
「そんな
ふうに聞こえましたか」
「聞こえました。恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものです。しかし……しかし君、恋は罪悪ですよ。
わかっていますか」
 私は急に驚かされた。何とも返事をしなかった。


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