【红袖七队】ミス·パイロット ④章 P78~98

yokotian (零妖妖) 巫师圣灵
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发表于:2015-09-25 21:24 [只看楼主] [划词开启]

P78-82

 

4章 晴、初めての「体験搭乗」。それぞれがケジメを意識して、いよいよ渡米(とべい)!

 

グループAの6人は、羽田空港のロビーに集まっていた。全員、笑顔を浮かべてどこかわくわくした様子だ。彼らは今、アメリカ、イースダコタで訓練に向けて、国内での学科訓練中だ。1年半の地上配属を終えて、ようやくパイロット訓練らしい訓練がスタートした事が笑顔の理由だろう。今日の予定は二人ずつ、晴と岸井、千里と諸星、山田と小鳥の3組に分かれての体験搭乗だ。集まった後、彼らは自分たちがそれぞれどこ行きの飛行機に乗るかなどを楽しげに語った後、それぞれのペアごとに3方向へと歩き出した。

「本日、体験搭乗で2名の訓練生が乗ります。手塚君と岸井君です」

千歳空港(ちとせくうこう)行きの飛行機のキャビン(客舱)内で、機長の篠崎からそう紹介され、二人は元気よく挨拶をした。体験搭乗は、コクピット(驾驶员座舱)に一人、キャビンに一人だ。往路と復路で入れ替わるのだ。岸井が、往路のコクピットを快く晴に譲ってくれたため、晴は弾むような足取りでコクピットに向かった。しかし、今まで飛行機に乗ったことのない晴にとっては初めての飛行機だ。離陸を待つ晴の表情と態度は、あからさまに緊張していますという感じに変化していった。そんな晴に篠崎が緊張をほぐそうと思ったのか、緊張してる?と質問してくれた。

「はい…生まれて初めての飛行機なので…」

「人生初のフライトがコクピットなんて、君はツイてるね」

晴の返答に笑ってそう返してから、篠崎は離陸の準備に入った。機体の滑走路を走る速度が、徐々に上がっていく。そしてスッと離陸した。

「飛んだ…」晴は思わずそうつぶやいて、感動の笑みを浮かべた。緊張は解けたようだった。

離陸後、しばらくしてから、篠崎は晴に話しかけた。

「いよいよアメリカ訓練だね」

「え…あ、はい。…アメリカ訓練って毎年、何人が脱落するんですよね?」

「試験に2回続けてミスしちゃったら失格だからね」

篠崎の言葉に晴は不安そうな表情を見せた。そんな晴の不安を打ち消すかのように、篠崎はゆっくりとした口調でつけ加えた。

「でも、自分の意思で飛べるのはアメリカ訓練が最初で最後だから」

その言葉に首をかしげた晴に、篠崎は、パイロットは管制官の指示に従って飛行機を飛ばさなければならないことを説明した。窓の向こうに見える雲ひとつ避けて飛ぶにも、それをしていいかどうか、管制官の指示を仰がなければならず、自分の意思では飛ばないのだ。そのことに驚いているうちに、晴が初めて乗った飛行機は無事千歳空港に到着した。羽田空港に向かう復路では、岸井がコックピットで見学だ。篠崎の操縦の様子を見学していた岸井だったが、話題はやはりアメリカ訓練のことになっていた。岸井はアメリカ訓練に行く前の身辺(しんぺん)整理について尋ねた。すると、篠崎は「ケジメをつけて結婚するカップルとか多いよ…まぁ、逆に別れるカップルも多いみたいだけど」と答えた。ちなみに、偶然にもというべきか、やはりというべきか、みんな気になるところなのだろう。他の2組も、往路でも復路でも話題は似たようなものだった。山田と小鳥の搭乗した飛行機の機長は、往路では小鳥にアメリカ訓練のミッション数がいかに多いかを説明して彼の不安を帰り、復路では山田に自分がアメリカ訓練前にCAに告白したことを話していた。山田は機長の告白の結果を興味?で聞いた。この時、山田の心中には倫子の姿が浮かんでいた。千里と諸星が搭乗した飛行機は、国木田が機長の務めていた。往路で、国木田は諸星に、アメリカ訓練のことを、「最高の訓練だな」と評した。それは、篠崎が言ったように、自分の意思で飛べる最初で最後の機会だからという意味だったのだろう。そして、復路では千里に、研修への出発前にすべきことはと尋ねられ、ケジメだなと答えた。「別に私に好きな人なんて…」

千里がそう口にしたのは、国木田がケジメの例として告白したり結婚したりするカップルが多いと話したからだ。国木田は苦笑してつけ加えた。「ばーか、好きな男に告る(こくる)だけがケジメじゃねぇだろ?」相変わらず口の悪い教官である。「1年半もアメリカに行くんだ。親兄弟とかにちゃんと会っとけってことだよ」国木田の言葉に、千里は一瞬だけ、思いつめたような表情でうなずいた。が、すぐに、顔を上げ、操縦の見学と、それについての質問に戻ったのは彼女らしかった。ちょうど、飛行機は東京上空に達しており、着陸態勢に入っていた。千里にも窓から滑走路が見える。

「横風が強いな。オートはやめて手動で着陸しよう」

国木田が副機長に指示を出した。千里はその様子を、息を呑みながら見ていた。「!」

千里がピクットしたのも無理はない、突然風に吹かれて機体が揺れたのだ。国木田は体勢を戻すように冷静に支持を出しているが、まだ新米らしい副機長は返事はするものの、焦った表情でその呼吸はひどく荒く(あらい)なっていた。機体は滑走路にどんどん近くなっていく。その様子に、つられて千里も動揺してしまう。ただ一人、国木田だけは冷静で、副機長に操縦を代わるよう促した。冷静に、でも、真剣な表情で操縦桿を握る国木田の背中を、千里は緊張した面持ちで見つめた。国木田の操縦で、機体は危なげもなく着陸した。

「ナイスランディング!…すみません」思わず声に出してしまい、すぐにハッとして謝る千里に国木田は小さく笑って見せた。その後、体験搭乗を無事終えた千里は、国木田に質問に行った。

「なぜあの時、操縦を代わったんですか?」

「乗客に気持ちよくランディングしてもらいたかったからな」

「…私も国木田さんみたいな操縦ができるように頑張ります!」

千里の言葉に、国木田は笑って、せいぜいアメリカであがいてくるんだな、と告げた。その言い方に、千里は微妙な表情を見せた。国木田も行くのなら、アメリカでしごいてやるよと言いだろう。でも、そうは言わなかった。「…国木田さんは行かないんですか?」千里の質問に、国木田は「行くわけねぇだろ」とだけ答えて、去って行ってしまった。千里が、その背中を少し淋しそうに見つめていたことなど、彼は知らなかった。

 

P83-87

 

復路では晴は飛行機のキャビン内で座っていた。もうすぐ羽田に到着する頃だ。何気なくキャビン内を見渡していると、盛り上がっている団体客の姿が目に入った。スカイツリーだの、浅草だの、東京に着いてからの予定について熱く語っている。

「当機は間もなく羽田空港に着陸いたしますー」

機内にアナウンスが流れたが、団体客たちはそれを気にするでもなく話に夢中だった。晴はその様子をジッと見ていた。何かが気になって仕方なかった。だけど、それが何なのかは、晴自身にも分からなかったのだ。その状態のまま、飛行機は羽田空港に着陸した。初めての飛行機の興奮も冷めないままに、晴はまず篠崎に話しかけに行った。「私も篠崎さんみたいなパイロットになりたいです」

「僕は僕、手塚君は、どんなパイロットになりたいの?それを聞いてみたい」笑顔だった晴はその言葉に、思わず閉口した。どんなパイロットになりたいか…質問の答えを考え込んで何も言わなくなる晴を篠崎は笑顔で見つめていた。その質問の答えを思いつけないまま、篠崎と別れ寮に戻ったのだけれど、その帰り道の間も、寮に戻ってからも、晴はずっと考え込んでいた。

「ホンマすごかったわー」「俺も早く自分で操縦したいなあー」

食堂では山田と岸井が今日の訓練について、興奮しながら会話していた。いつもなら率先(そっせん)して交ざる(まざる)晴なのに、今日は食堂の隅に座り込んで、ずっと考え込んでいた。岸井はそんな様子の晴が少し気になったが、口には出さず山田との会話を続けた。「アメリカ行も決まったわけやし、もうひと踏ん張りやな!」パイテンションの二人に、呆れた表情で千里が水を差した。「何言ってんのよ、パイロットになれるのはまだまだ先の話でしょ?アメリカ訓練が1年半、その後だって位年以上訓練は続くのよ?まだ何も始まってないじゃない」「そりゃそうだけどさ…」正論と言えば正論だけど、盛り上がりに水を差され、山田と岸井は急激にしおれてしまう花のようだった。そんな二人を置いて、食事を終えた千里はさっさと自室に戻った。「相変わらず、冷静な女やなぁ…」 一瞬凹んだが(へこむ)、アメリカ訓練のことを思い出すとまたすぐにテンションが上がる。「なぁなぁ、アメリカでのバディ…誰になると思う?」アメリカでの訓練は常に二人一組で行われる。常に助け合い運命共同体といっても過言ではない相手、その相手のことをバディと呼ぶのだ。山田の言葉に岸井は思わず晴の方にチラッと視線を投げた。むろん、晴はそれには気がつかない。が、山田の方はすぐにそれに気がついて、ニヤニヤとした笑みを浮かべた。「誰と組むかはかなり重要やろー」 明らかに岸井のことをからかいながら、山田は晴の方に分かりやすく視線を向けた。「や…やめろよ…」岸井が焦って山田を制しているあたりで、不意に晴が席を立った。そのまま、その空気を全く意に介していない様子で晴は食堂を出て行った。岸井は、思わず山田のことは放棄して、晴を追いかけた。すぐに追いついた晴は傍目(おかめ)ボーツとした表情で歩いており、岸井が追いかけてきたことも気がついていない。大丈夫か?と声をかけられて初めて、岸井の存在に気がついたほどだ。「あのさ、俺達って、バディになったら結構うまくやっていけそうじゃない?」岸井が思い切って絞り出した台詞に、晴が最初首をかしげたので、彼はとても落胆したのだが、不意に晴が、「…そうかもね」 「…え?」「うまくやってけるかも」 そう微笑んだものだから、彼は「そうだよな!」と大大喜びした。むろん、党の晴はこの時点で、なぜ岸井がそんなに喜んでいるのかなど知る由もないけれど。その頃、食堂に残された山田は、まだどこか不安気な顔をしている小鳥に話しかけていた。

「小鳥、心配しすぎやって!」

「でも、2回連続で試験に失敗したら、脱落なんだよ…こうなったら神頼みしかないかな…今日機長から聞いたんだけどさ、航空関係のお守りー」

「神頼みでパイロットになれるわけないだろ?」

山田の励ましにどうにか不安を掻き消そうと、神頼みを提案しかけた小鳥の言葉を遮ったのは(さえぎる)、山田ではなく、食堂に残っていた諸星だ。そして、その小鳥のことを鼻で笑った諸星に噛みついたのは、当然小鳥自身ではなく山田の方だ。

「お前、不安な奴に鞭打って楽しいんか?」

「事実でしょ?」

その態度に、山田はあっさりと沸点(ふってん)に達してしまったようで、お前なぁ、と諸星に摑み(つかみ)かかろうとしたのだ。それを制したのは、その様子をはらはらとした表情でみていたかのこではなく、小鳥でもなく、ちょうど夕食を食べに来た国木田であった。

「やめろ、お前らガキか?…あのな、お前ら二人ともパイロットには向いていねぇよ」

冷たく吐き捨てられた言葉に二人は絶句した。

「すぐカッとしたり、協調性のない奴がパイロットになれるわけないだろ。山田、お前は空の上でも今みたいに熱くなるのか?」 その言葉に山田は何も言い返せず、思わずうつむいた。

「でも、諸星、お前は横でキャプテンが苦しんでいても放っておくのか?」「あ」

「少しは大人になれっての。かのこさん、飯ちょうだい」

かのこに食事を要求することで、国木田はその話を終了させた。国木田はそのまま普通に食事を始めたが、山田と諸星は何も言えないままでいた。国木田に言われた言葉は数日経っても、彼らの頭の中から消えなかった。岸井は体験搭乗以来、恋愛におけるケジメのことばから考えていた。その結果、晴のことばかり見てしまっていた彼が、「あんた手塚のこと好きなんでしょ?」訓練の合間、偶然二人きりになった千里にそう言われたのは無理からぬことかもしれない。「顔に書いてあるわよ。俺は手塚のことが好きだー!って」「おい!やめろよ!声でけえって!」

 

 

P88-92

 

うろたえながら、慌てて千里を制そうとする岸井も、悪戯っ子のように笑いながら岸井をからかっていた千里も、この時、気づいていなかった。偶然にも、岸井の姿を見かけたすずが、二人の傍にいたことに、すず自身は、声をかけようとしていたのだれど、「お前さぁ、あんまりでかい声で好き好きいうのやめろよな」岸井のその言葉にキョトンとして、咄嗟に物陰に(とっさにものかげに)隠れてしまったのだ。そんなことはしらない岸井と千里は会話を続けた。笑いながら謝る千里に岸井はポツリと言った。

「でもまぁ、好きってのは…事実だけど…」

「でも、彼女のことどうするの?」

「お前、痛いところついてくるな。ちゃんとケジメはつけるよ」

ケジメか…、岸井の言葉をまるで自分のことのように噛みしめながら千里は、休憩終わるわよと岸井をせかして、その場を立ち去って行った。幸か不幸か、すずが隠れた方向とは反対方向にだ。茫然としていたすずだったが、彼女はすぐに踵を返した。行先は、岸井のところではなく、彼女の頼れる姉的な存在の先輩のところだった。すずと倫子の

距離は以前のすずの大ミス後に飲んで以来、ぐっと縮まり、今ではすずは何でも倫子に相談しているのだ。つい先日も、岸井のアメリカ行について話したばかりだった。そのとき、倫子はアメリカ訓練を機に結婚するカップルが多いことを教えてくれた。自分の同期にも何組かいたという倫子にすずは思わず、倫子さんはそういう人いなかったんですか?と質問し、倫子はどうかなと笑ったものだ。が、今日はそんな微笑ましい(と言えたかもしれない)内容とは大分分かけ離れていた。

「え?岸井君と小田さんが?」「そうなんです…泰治、小田さんのこと好きになったみたいで…。二人とも仲好さそうにベタベタして…なんなのよ、もう!」後半しか聞いていなかったための勘違いである。まあ、相手が誰であれ、彼女の苛立ちは収まらない。心配そうに、倫子はすずにどうするつもりか尋ねると、すずは「どうするって、…そりゃあ負けませんよ!」と強気で返したのだ。その夜、そのすずの思いに応えるように、あるいわそれを踏みにじるかのように、岸井からすずに電話がかかってきた。話があるから会えないかという誘いを、すずは承諾(しょうだく)した。岸井が指定した公園で、すずは岸井と落ち合った。岸井の表情はどこか暗く、でも、何かを決意した顔だった。別れ話だろう。しかし、すずを前にすると、岸井は口ごもって、なかなか話を切り出せなかった。そのあたりが、すずがいるのに他の女に目がいってしまう所以(ゆえん)なのかもしれない。それでも嫌いになれない自分にすずは内心で苦笑しながら、その背中を押してあげたのだ。「ねぇ、私たち、結婚しよっか」 「俺た…え、えぇぇぇ?違うよ…その…別れよう。俺、今の気持ちのまま、すずとは結婚なんてできない。だから、すず、今までほんとにありがとう」 すずの結婚発言を受けて、岸井はようやく別れを切り出した。最低かもしれないが、それでも彼女とこのまま結婚することはできないと思った、それが彼のケジメだった。 

「よし、別れた!じゃあ、私たちの恋愛、これからはセカンドシーズンだね!」

「え?セカンド?…あの、ごめんなさい…よく意味が…」

「私、絶対また泰治を惚れさせてみせるから!私、全然諦めてないから!」 笑顔のすずに岸井は心底驚くことしかできなかったが、それが彼女の決意だった。岸井がそうして呆然としている頃、山田はさらに呆然とした表情で寮の食堂にフラフラと入ってきた。その場に居合わせた小鳥に、彼は思い切って倫子に告白したこと、だけど、弟にしか見えないと、あっさりふられたことを打ち明けた。小鳥は必死に山田を慰めた。

「ま、まあ、ほら、人生何が起こるか分からないと思うよ?」

「…せやな!人生、何が起こるか分からないよな!うん、俺と倫子さんが付き合う可能性もゼロじゃないってことやんな!」 「…え…そこまでは言ってないけど…」

ある意味では、山田の立ち直りの速さは晴のそれに匹敵するかもしれない。小鳥は思わず絶句しながら、「俺、頑張るな!」と言う山田を遠い目で見つめた。そんな山田を気にするでもなく、食堂に入ってきたのは諸橋だ。この間の一件以来、多少気まずい雰囲気のままの彼らだったが、諸星は淡々(たんたん)と小鳥に話かけた。

「これ…あげる」 「え…これ…飛不動のお守り…買ってきてくれたの?」

諸星が小鳥に手渡したお守りには、護符と一緒に金色の飛行機が付いていた。航空安全にご利益があることで有名な台東区にある飛不動尊で入手できるお守りだ。小鳥が先日の搭乗体験で乗った飛行機の機長もフライトバッグにつけていた。小鳥が機長に教えてもらった「神頼み」とはそのことであり、あの日、小鳥と同じ飛行機に乗っており、航空関連全般の知識の深い諸星はすずにそのことに思い当たったのだ。さらに諸星は、トビフドウ?と首をかしげた関西出身の山田に、「航空安全のお守りだ」と説明した小鳥に、こうつけ加えた。

「…航空安全もあるけど…あと「落ちない」ってことで、受験生が合格祈願(きがん)として持ったりもするんだって…だから、これがあれば、アメリカdめお落ちないよ…」 照れくさそうにつぶやく諸星に、小鳥は思わず笑顔になった。諸星は、さらに4つのお守りを小鳥を押しつけると、他の皆にも渡しといてくれとぶっきらぼうに言い、足早に食堂を出て行った。そんな諸星に、山田は自分で渡せばええのにとつぶやいたが、小鳥は、「恥ずかしいんだよ、はい」 そう言って、山田にお守りを差し出した。山田は微笑みながら受け取った。その様子をあの一件以来小鳥のことを心配していたかのこは、食堂の奥から微笑んで見守っていた。

「…ただいまs…」

そこに、細い声で、すずとの会話の衝撃から抜け切らない、放心状態のままの岸井がフラフラと食堂に入ってきた。山田が先ほど食堂に入ってきた時と随分と似た様子だと思いながら、小鳥は笑顔で、お守りを「はい」と差し出したのだった。受け取りながら、岸井は不思議そうな表情をしている。当然と言えば当然だが、状況がわからないのだろう。そんな岸井を気にするでもなく、山田と小鳥はあとは手塚さんと小田さんだけだねと話し合った。

「せやな、けど、あの二人おらんけど、どこ行ったんやろうな…」

その時、晴と千里は寮でなく、晴の実家の「ヒバリ」にいた。実は、「ヒバリ」に来る前に、千里も彼女の実家に戻っていた。千里の母親の久子は千里の父おは離婚しており、小田家は母子家庭だ。久子は元々、千里がパイロットを目指すことに反対していた。それは千里の父親がパイロットであり、そのことが離婚の大きな理由となっていたからだ。そんな久子だから、千里の渡航(とこう)報告に難色を示したのは当然だろう。千里が何を言っても、久子は否定するばかりで、結局、分かり合えなかった。そう思いながら寮に戻ってきた千里を、晴が半ば強引に「飲みに行こう」と誘ったのである。

 

P93-98

 

「どうして、私がアンタの実家に来なきゃいけないのよ…」

晴に注がれた(そそぐ)日本酒をぐいっと飲み干して、千里は晴を睨みつけた。

「そんなことないよ?」 「…アンタ、嘘つくとバレバレなのよ」

笑顔の晴に、千里は溜息をついた。実家に帰ったことも、母とのやりとりも晴には伝えていないのだけれど、寮に戻った千里の様子から何かを察したのだろう。晴は千里を強引に連れだし、「ヒバリ」にやって来たのだ。そんな中で、晴のアメリカ行きを聞いた常連客の一人が、「そりゃあ、大将も女将さんも心配だろう」と言ったのに、よし美は「心配なんてしませんよ。この子なら大丈夫ですよ」と笑顔で返している。千里はそんなよし美の態度をジッと見ていた。別の常連客は、自分も来月アメリカ旅行に行くことを嬉しそうに語りだした。アメリカに行ったら、グランドキャニオンやラスベガスに行くつもりだと語る彼を、千里は微笑ましく見ていたが、晴は思わず黙って考え込んでいた。そのまま、二人は閉店時間まで飲み続けた。

「…さっきの源さんの話、不思議だよね…」

源さんとはアメリカ旅行について語った常連客だ。何がと尋ねた千里に晴は言葉を探しながらゆっくりと話し始めた。

「源さんさあ、アメリカに着いてからの話ばっかで…まるで飛行機で移動すること忘れてるみたいだったよね…。この間もね、体験搭乗の時に団体のお客さんがいて、皆、あの飛行機に乗ってたことを思い出すのかなぁ…」

「…何が言いたいの?…手塚?」

返事がない晴の方を見て、千里は絶句した。思わず、おいとつびやいてしまったのも仕方ないだろう。晴は寝ていたのだ。

「…この子ったら、お友達ほったらかして…ごめんなささいね」

謝るよし美に、千里は思い切って質問した。

「…娘さんがパイロットになること、心配じゃないんですか?」

「…子供が心配じゃない親なんていないわ。…本音を言うとね、すごく心配よ…事後とかいつも考えてる。だけどね、そんなこと言ってもこの子の重荷になるだけだから」

その言葉に少しの間考えてから、千里は立ち上がった。

「…あ、あの、ちょっとすみません!私、行かなきゃいけない所があって…」

よし美に頭を下げて、「ヒバリ」を出た千里が向かったのは、彼女の実家だった。夕方帰ってまた出て行ったばかりの娘の突然の帰宅に、久子は驚いた表情を見せた。

「…お母さん!私、絶対にパイロットにはならない…お母さんを心配させるようなパイロットには絶対ならないから!…お母さん、いつも心配かけてごめんね」

「…脚気にしなさい」

それはひどく優しい言い方だった。許してくれたのだろう。それを悟った(さとる)千里は思わず笑顔を浮かべた。

千里に置いて帰られた晴だったが、実家なので特に問題はない。朝起きると両親は仕入れに出かけてて、テープルには太巻きが置いてあった。よし美の「気をつけて行ってくれるんだよ 母」という置手紙を微笑んで読みながら太巻きを食べて、寮に戻って来た晴は国木田の姿を見つけて駆け寄った。

「国木田さん!私、決めました!」

篠崎から質問されて以来、悩み続けていた晴のことは国木田も気にしていた。篠崎に質問の内容を聞き、晴がどんな答えを出すのだろうかとおもっていたのだ。

「私、…人の記憶に残られないパイロットになります!」「は?」「乗ったことも忘れちゃうような、そんな安全なフライトができるようになりたいです!」迷いのない顔で晴は言い切った。「そうか…篠崎さんに言っとくよ」そう言って笑ってみせた国木田だったが、その心中は複雑だった。実は自分もアメリカ訓練に同行することになってしまったことをまだ晴たちに伝えていないかったのだ。むろん、千里に伝えたとおり、彼にはその気はなかった。しかし、いつの間にか、篠崎に手を回されていたのだ。挙句に、どこからかその噂を聞いた倫子には「行かないって言ったじゃない」と責められ、篠崎にハメられたと伝えたものの「もう知らない!」と言われてしまった。訓練生たちに偉そうに、ケジメについて語ったりしたのに、自分はそんな状態でいることが多少後ろめたかったのだ。それでも、アメリカ訓練の日程は近づいており、国木田は彼らに自らも同行することとパディの組み合わせを告げた。国木田が同行することを聞いた瞬間、千里が密やかに嬉しそうな顔をしたことは誰も気が付かなかったが、岸井のパディが小鳥だと告げられた瞬間、岸井がかかりやすく落胆したことには晴以外の全員が気がついていた。そんな岸井を放って、国木田が、山田と諸星という組み合わせを発表した瞬間、山田と諸星はもちろん、千里も、え?と声をあげた。「最後に、小田と手塚、以上だ」その発表に、晴と千里は顔を見合わせて黙ってしまった。その場では、結局それ以上は何も言わないかった千里だったが、その後すぐに国木田を追いかけて追い詰めた。

「待ってください。女性訓練生同士がバディを組んだ前例なんてありませんよね?」「それは…」

「それは…」「小田、腹くくれよ」

言い?んだ千里にそれだけ言って、国木田は立ち去ってしまった。残された千里はしばらく、その場で悩んでいたが、やがて顔を上げると、何かを決心した表情で晴のところに無あった。晴の方も、発表後すぐに出て行ってしまった千里を探していた。「…小田さん…私がバディで嫌だった?」

聞きにくいことをはっきりと言う晴である。

「でも私、絶対パイロットになるから。小田さんに迷惑はかけないから。だから…」

そこまで言いかけた晴の方を見つけた千里の顔は、迷いを捨てた顔だった。

「…自分のことは自分でやること」 「え?」

「勉強教えてって泣きつかないこと。英語もちゃんと勉強すること」

千里のはっきりとした言葉にキョトンとしている晴に、千里はつけ加えた。

「私だって余裕ないんだから」

その言葉に晴は思わず微笑んだ。千里が自分を対等に見てくれている、バディとして認めてくれているのだと気がついたのだろう、「手塚、足引っ張ったら承知しないからね」「うん!」アメリカ訓令はもうすぐだ。

 

@lyun006 @肥猫66 @Vivianz55 @蚬木

最后编辑于:2016-05-01 21:43

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分类: 朗读

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